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司法試験と条文学習

司法試験受験生にとって何よりも大切なツールが「条文」です。「条文」は予備試験・司法試験の論文式試験で参照することができるため試験現場で「条文」をいかに素早く引くことができるかが合格のカギを握ります。もっとも、現場で「条文」を素早く引くためには、事前の準備が必要です。以下に条文学習の注意点を述べたいと思います。

 

|テキストを読む際に条文を読まない

テキストは多くの場合条文の場合を要約して記載をしていたり、条文に記載されている事項と記載されていない事項(解釈等)とを混在して記載しているものです。そのため、テキストだけを読む際に条文を読まないと、受験生としては、テキストの知識が条文に書いてあるのか否か、書いてあるとしてどこに書いてあるのかを認識することができません。これでは、現場でうろ覚えの知識について「条文に書いてあるだろう」と思ったのに書いていないということが起きたり、「どこかに条文があったはずだ」と思いながら条文を探して3分、5分と時間が流れ、結果的に条文が見つからないということもあります。テキストを読む際には、必ず条文を参照し、①当該知識が条文にはどのように書いてあるのか、②条文に書いていない知識であれば記憶の対象とすべきなのか、を常に確認するようにしましょう。

 

|条文の文言を重視しない

例えば親族相盗例という知識があります。これは、窃盗罪等が親族間で生じた場合には刑が免除されるというものです。これに関連して「共犯事案について親族関係が正犯者と共犯者のいずれに必要か」という論点があります。もちろんこの論点を学習することに意味はあるのですが条文を離れた抽象的な知識では定着度が低下してしまいます。では、どのようにすればよいのでしょうか。

 

【刑法第244条第1項】

配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

 

この条文を見ると、刑法第244条第1項が適用されるための要件は、「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者」であること、効果は「その刑を免除すること」であると読み取ることができます。そして、共犯事案においては、親族関係が「誰と誰との『間』に必要か」という形で条文に引き付けて問題提起を行うことができます。刑法第244条1項の条文は「(被害者)との間で罪を犯した者(犯人)」という書き方をしていますから、被害者と犯人との間であることしか規定していません。しかし、共犯関係においては、犯人とは、正犯者を言うのか、共犯者を言うのか、あるいはその両方を言うのかといった問題が生じるわけです。こうした理解を元に論証を書くと以下のようになります。

 

甲には窃盗罪の教唆犯に該当する。

もっとも、被害者であるVは甲の母親であるところ、刑法244条1項が適用されるか。同項の趣旨は「法は家庭に入らず」にあるところ、被害者と正犯者及び共犯者双方との「間」に同項規定の親族関係が必要であると解する。確かに、Vは共犯者たる甲との関係では「直系血族」であるが、正犯者たる乙との関係では同項規定の親族にあたらないから、被害者と正犯者及び共犯者双方との「間」に同項規定の親族関係が存在するとはいえず、同項の適用はない。

(※結論はともかく書き方を参考にしてください)

 

|条文に適切なマークを行わない

条文に書き込みをするか否かは好みの問題ですが、私は書き込みをしていました。書き込み方はシンプルです。

 ・解釈部分は黄色でマークをする

 ・原則部分は赤色で傍線を引く

 ・例外部分(かっこ書きやただし書き等)は青色で傍線を引く

書き込みのルールをあまり複雑にすると後々面倒になるためこの程度でよいかと思います。もう少しきちんと書き込みたいなら要件ごとに①、②・・・と番号を付け、条文にない要件については③、④と番号だけを書いておいて記憶喚起する等の方法も考えられます。このようにマークをしておけば、試験会場で、解釈部分、原則部分、例外部分が浮かび上がってくるため、条文を引きやすくなります。マークをせずに漫然と条文を読んでいるといざ現場で条文を引いた時にポイントを押さえて読むことができなくなるおそれがあります。

 

|司法試験用六法(予備試験用六法)を使わない

司法試験(予備試験)で使うことができるのは司法試験用六法(予備試験用六法)です。これらは1年古いものであれば市販もされています(最新版は試験会場でもらえます)。この市販の司法試験用六法(予備試験用六法)は、レイアウトや、見出しの有無まで本試験の現場で使うことのできる六法と同じです。参照条文や、不必要な見出しなどがなく、引きにくいのは事実ですが、この条文を引くこと自体が練習であるため、是非、本試験の現場で用いる六法を同じ六法を使うようにしてください。

 

|条文の指摘を手段に過ぎないと考える

条文の指摘は司法試験(予備試験)においては手段ではなく目的です。例えば、条文に書いてあることをわざわざ解釈として書いた場合、その起案は説得力において劣ることになります。法律の世界における条文の存在はいわば「原理」のようなものであり、疑ってはならないものです。そうした「原理」を使って説明すべき部分をわざわざ「原理」から派生した解釈を使って説明をしているわけですから、説得力が下がることは言うまでもありません。説得力のある起案というのは「原理」である条文で説明できることを「原理」である条文で説明しつくしている起案です。こういう意味でも、条文の指摘は手段ではなく目的なのです。

 

|条文を活用すれば覚えなくてよいことを無理に覚える

これも消極的なミスといえます。例えば、民事訴訟法の補助参加の要件で「他人間の訴訟が係属していること」というものがあります。こうした要件をわざわざ記憶する必要はありません。なぜなら、民事訴訟法第42条を読むと以下のように書いてあるからです。

 

民事訴訟法第42条】

訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる。

 

この「第三者」とはすなわち訴訟の当事者ではないということです。要するに「他人間の訴訟が係属していること」という意味になります(参加人が第三者であるということは参加人以外の他人を当事者とする訴訟が係属しているということ)。条文を読めば簡単に記憶喚起できる要件について丁寧に丸暗記をすることは無駄と言わざるをえません。

 

いかがでしょうか。条文学習のコツは他にもたくさんありますが、取り組みやすそうなものを優先的にピックアップして列挙しました。本文中にも書いたように司法試験における条文は「原理」です。「原理」を最大限活用して説得力のある答案を効率的に書くようにしてください。