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無効確認訴訟の補充性要件を考える

司法試験でも出題歴のある無効確認訴訟の補充性要件について検討します。この論点は一見わかりやすそうで実は分かりにくいのできちんと内容を整理して押さえておく必要があります。

 

根拠条文を確認する

まずは無効確認訴訟の補充性要件の根拠条文を確認します。

【条文-行政事件訴訟法36条】

「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。」

アンダーラインを引いた部分が補充性要件の根拠条文です。すなわち、無効確認訴訟を提起するためには、当該処分等の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えでは目的を達成できないことが必要だということです(補充性要件)。現在の法律関係に関する訴えとは、民事訴訟争点訴訟)又は当事者訴訟をいいます。すなわち、処分の無効そのものを求めるのではなく、処分が無効であることを前提として、現在の法律関係に関する主張を行う訴訟をいいます(Ex.土地収用処分の無効を前提に、民事訴訟又は当事者訴訟として元土地所有者の所有権確認の訴えを提起する等。土地収用処分自体の無効確認判決を求めているわけではないですが、土地収用処分の無効を前提に、所有権確認判決を求めています)。

 

条文の解釈を確認する

通説によれば、無効等確認訴訟(抗告訴訟)を認めるか現在の法律関係に関する訴えで争わせるべきかについては、「紛争の実態に照らし、無効等確認訴訟と他の訴訟(民事訴訟争点訴訟や当事者訴訟)のいずれが当該紛争を解決するためのより直截的で適切な争訟形態(訴訟形式)といえるかにより」(大島義則編著『実務解説行政訴訟勁草書房第144頁)決定されるべきと解釈されています。最判平成4年9月22日(もんじゅ訴訟)も、「…本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的かつ適切なものであるともいえない…」として、この立場に立つことを明らかにしています。

 

解釈のポイントを押さえる

上記解釈のキーポイントは「目的を達することができない」との文言です。すなわち、「目的を達することができない」について、①民事訴訟又は当事者訴訟が提起できない場合だけでなく、②民事訴訟又は当事者訴訟を提起することはできるものの無効確認訴訟の方がより直截的かつ適切といえる場合にも、「目的を達することができない」に該当するということです。文言上は、①の場合にのみ補充性要件が認められるとも読めそうですが、解釈上、①だけでなく②の場合にも補充性要件が認められることになります。

 

そもそも無効確認訴訟とは何なのか

行政処分には公定力があります。公定力とは、取消判決により処分の効力が否定されるまで当該処分は有効であるという効力です。そして、取消訴訟には、出訴期間制限(行政事件訴訟法14条)があります。公定力と、出訴期間制限を合わせると、出訴期間を経過した処分については、その効力を争うことができなくなります。

では、「現在の法律関係に関する訴え」を提起し、行政処分の効力を否定した上で現在の法律関係に関する訴えを提起することはできるのでしょうか。これはできないとされています。上記公定力と表裏の関係にありますが、行政処分の効力は、取消訴訟によってのみ争うことができるのです(取消訴訟の排他性)。やはり、出訴期間制限後は、行政処分の効力を争ったり、行政処分の効力を否定して何らかの法律関係についての主張を行うことは不可能だということになります。もっとも、この公定力(取消訴訟の排他性)には例外があります。すなわち、行政処分が違法であるにとどまらず無効と言える場合です。このような場合には、取消訴訟によらずとも、行政処分の効力を否定することができるのです(無効な行政処分には公定力(取消訴訟の排他性)は認められない)。そこで、当事者としては、取消訴訟の出訴期間制限後に、行政処分の効力を争うために、行政処分が無効であることを前提として現在の法律関係に関する訴えを提起することができるのです。

なお、そうであれば、わざわざ行政処分の無効確認訴訟をいう訴訟形態を法定する必要はないように思えます。無効な行政処分については公定力(取消訴訟の排他性)が及ばないのですから、民事訴訟又は当事者訴訟で、処分が無効であることを前提に法的主張を組み立てればよいのです。しかし、行政事件訴訟法は、抗告訴訟としての無効確認訴訟を法定しています。これは、行政処分の効力を否定した上で現在の法律関係に関する訴えを提起するよりも、ダイレクトに処分の無効確認を求める方が、紛争の実態にとってより直截的かつ適切な場合があるからです。したがって、行政事件訴訟法は、無効な行政処分については、「現在の法律関係の訴えに比して無効確認訴訟の方がbetterといえる場合」に限り、無効確認訴訟により、ダイレクトに処分の無効確認を求めることができるとしているわけです(無効確認訴訟は、このように、補充的な位置付けであるため、上記の通り、補充性要件と呼ばれます)。

 

実際にどのように訴訟選択をするか

では、処分が違法といえる場合に、どのように訴訟選択をすべきでしょうか。

1.処分が違法であるが無効ではない場合

この場合は、取消訴訟出訴期間内に、当該処分の取消訴訟を提起しなければなりません。違法ではあるが無効ではない処分については公定力(取消訴訟の排他性)が認められるため、現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)を提起して当該処分の効力を否定することを前提とした主張を行うことはできません。

2.処分が無効である場合

この場合には、①出訴期間制限内であれば処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)あるいは取消訴訟を提起します。これに対し、②出訴期間制限後であれば、処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)あるいは無効確認訴訟を提起します。①の場合は、現在の法律関係に関する訴えと取消訴訟のいずれも選択することができますが、前者による場合は処分が無効と言えない限りは訴えが認められないため取消訴訟による方がハードルが低い可能性が高いです。一方で、②の場合は、原則として現在の法律関係に関する訴えを提起することとなり、補充性要件を満たす場合に限り、無効確認訴訟が選択肢に上がります。

 

いかがでしょうか。以上が、無効確認訴訟の補充性要件についての考え方です。行政事件訴訟法の条文解釈の問題ではありますが、行政処分の公定力(取消訴訟の排他性)についての理解が問われる論点でもあります。また、補充性要件についてのあてはめについても具体性が求められます。民事訴訟又は当事者訴訟と抗告訴訟の違いを押さえておきましょう(行訴法38条1項、33条1項:拘束力、行訴法38条3項、25条:執行停止等)(※本記事での説明は省略します)。