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「強制の処分」該当性の検討

司法試験刑事訴訟法では「強制の処分」(刑事訴訟法第197条第1項ただし書き)該当性が頻出です。

 

|まずは条文を読んでみる

刑事訴訟法第197条第1項】

捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

刑訴法第197条第1項本文の「取調」とは捜査活動一般の意味で用いられています(白取祐司『刑事訴訟法』第10版(日本評論社)第94頁)。「その目的を達するため必要な」との部分からは比例原則(およそあらゆる捜査活動は人権制約を伴うところ、必要性等を考慮して相当といえる場合にのみ適法とされる)を読み取ることができます。次にただし書きに進みます。ただし書きでは、「強制の処分」(強制処分とは工学上の概念であり、「強制の処分」が文言上の概念です)について、例外的な扱いとしていることから任意捜査の原則が、「法律に特別の定」を要求していることから、強制処分法定主義が読み取れます。すなわち、捜査活動一般は、①強制処分(強制捜査)と②それ以外の捜査に分けられ、それ以外の捜査を任意捜査と呼ぶわけです。

また、憲法第33条、第35条、刑訴法の各規定から、明文規定のある強制処分について令状(逮捕状、捜索差押許可状その他)が必要とされていることから、「強制の処分」には令状主義も妥当すると解釈されます。

 

|強制処分該当性を検討する実益は何か

いわゆる司法警察活動について強制処分該当性を検討する実益とは何でしょうか。これは、任意捜査と強制捜査とで適法性判断の判断枠組みが異なるからです。

【任意捜査の適法性判断枠組み】

・(具体的な捜査目的との関係で)必要性等を考慮した上で相当性が認められるか否かで判断をする。

強制捜査の適法性判断枠組み】

・①強制処分法定主義違反、②令状主義違反、③法定の要件充足の有無の順で判断をする。

当該捜査が任意捜査に該当する場合は実体的な要素のみで適法性が判断されるのに対し、当該捜査が強制捜査に該当する場合は実体的な要素の前提として、強制処分法定主義違反(民主的コントロールの潜脱)、令状主義違反(司法的コントロールの潜脱)という2つの手続的な要素が検討対象となるわけです。したがって、答案では、強制処分法定主義違反及び令状主義違反という手続的な要素との関係で当該捜査活動が違法となる余地があるかどうかという観点から、当該捜査活動が強制捜査に該当するか否かを検討するわけです。

 

強制捜査該当性が問題となる2類型

司法試験・予備試験で強制捜査該当性が問題となる類型として①仮に強制捜査にあたるとした場合にどの強制捜査にあたるが明白な類型②仮に強制捜査にあたる場合でもどの強制捜査にあたるかが一見して明白ではない類型とに分かれます。①の類型は、例えば、「身柄拘束について実質的逮捕にあたるか」といった形の問題提起となりますので、強制処分法定主義違反は問題とならず(逮捕は法で定められた強制処分)、手続き的な要素については、もっぱら令状主義違反との関係で問題となります。これに対し、②の類型は、そもそも当該捜査活動が強制捜査として法で定められたものか否かという点から問題となりますので、例えば、「望遠鏡で室内をのぞき込む行為が強制捜査にあたり強制処分法定主義に反するのではないか」という形で問題になります。②の類型については以下の手順で論じれば論理が流れやすくなります。

(論じ方)

・本捜査は、「強制の処分」(刑訴法第197条第1項ただし書き)にあたり、強制処分法定主義に反しないか。

・・・

・したがって、本捜査は、「強制の処分」にあたる。そして、本捜査は、五官の作用で対象を認識するものであるから「検証」(刑訴法第218条第1項)にあたるといえ、強制処分法定主義には反しない。しかし、本捜査は、「裁判官の発する令状」(刑訴法第218条第1項)を得ずになされているから、令状主義に反し、違法である。

※司法試験、予備試験で強制捜査該当性が問題となる捜査活動は、「検証」に該当するケースが多いように思います。そのため、強制捜査該当性を肯定した後は、端的に「検証」該当性を肯定して令状主義違反と結論づければよいことになります。

 

強制捜査該当性の判断基準

最決昭和51年3月16日刑集30-2-187によれば、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と判示されています。この判例は、リーディングケースとして広く受験生の間にも浸透しているかと思います。もっとも、この判例の判断枠組みが、電話傍受やエックス線検査等、有形力を伴わない捜査についても及ぶか否かについては議論があるところです。判例のいう「意思の制圧」という部分が、有形力を伴わない捜査には妥当しないため、有形力を伴わない捜査についての判断基準としては十分ではないのではないかという問題意識があるためです。この点については、判例は、強制捜査を①有形力行使類型と②その他の類型とに分けてそれぞれについて異なる基準を使い分けているとする立場もあります。これに対し、①②いずれの類型についても、「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」という基準で判断すれば足り、昭和51年決定は、「有形力行使類型における法益侵害の程度が重大なのは『意思の制圧』を伴うような場合だというにとどま」るとする見解もあります(白鳥・同第99頁)。

受験生としては、「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」という抽象的な基準で、強制捜査該当性の判断枠組みを一元的に理解することをお勧めします。なお、その場合、あてはめにおいて、どのような権利利益が侵害されているかを特定して論じることを忘れないようにしてください。

 

|あてはめのポイント

最後に、あてはめのポイントです。上記「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」は、法定の強制処分に匹敵する程度の法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否かという観点から判断されます。したがって、身体の自由の根拠条文は憲法第33条、プライバシーの自由の根拠条文は憲法第35条ということになります。よく、法益をプライバシーとした上で憲法第13条後段を指摘する答案がありますが、ここは、捜索差押えとの関係で保護に値する程度のプライバシーということで、憲法第35条を指摘することが望ましいと考えます。判断が悩ましいのは、有形力行使を伴わない強制捜査ですが、これについては、生身の人間で認識できる以上の情報を取得するような捜査であれば、強制捜査と認定されやすいように思います(X線撮影やGPS等)。あてはめで指摘する事実は、当該捜査の質に関する事実に限られるという点に注意をしましょう。被疑事実が重大であること、嫌疑が濃厚であることといった被疑事件にかかる個別具体的な必要性は指摘の対象にはなりません。すなわち、重大な被疑事実にかかる嫌疑が濃厚な被疑者であるからという理由で逮捕が逮捕でなくなるというようなことはないわけです。