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司法試験・予備試験合格のためのHow toをClearかつConciseに伝えます。

「事実」と「評価」とで文を分けるべきか

●「事実」と「評価」を区別することは重要

●「事実」と「評価」とで文を切る必要はない

●「実務書面」と「司法試験」の答案は異なる

 

現行司法試験では豊富な事実が問題文中に記載されており、受験生としてはこれらの事実をなるべく多く指摘し、適切な評価を加えてあてはめを行う必要があります。また、事実の指摘及び評価については、それぞれの事実の関連性を意識しながら、結論である規範に向けて、論理構造を意識して記述する必要があります。

 

|「事実」と「評価」を混在しない

司法試験の採点基準については明示はされていないにせよ「事実」「評価」それぞれに配点が設けられていると言われています。そのため、「事実」と「評価」とを読み手が明確に区別できるように記述する必要があります。そのため、①問題文中の事実を書き写した上で、②これに対する適切な意味付けを行うことが原則となります。

 

|「事実」と「評価」とで文を分けるべきか

上記の通り「事実」と「評価」とを区別することは重要ですが「事実」と「評価」とで文を分ける必要はあるのでしょうか。合格者の中には、文を分けるべきであるとの意見があります。もちろん、「事実」と「評価」とで文を分けると、「事実」と「評価」とを区別することは可能です。しかし、文を分けることで必然的に文字数が増えます。司法試験は、時間制限と実質的な文字数制限とがあるわけなので、なるべく文字数を減らすべきです。そうであれば、「事実」と「評価」とで文を分けるべきか否かについても、慎重に判断をすべきです。

【私の再現答案(平成29年刑事系第2問)より抜粋】

・・・

(2)正当防衛(36条1項)により違法性阻却されないか。
ア、Aはまさに甲を殴ろうとして拳骨を甲の顔面に向けて突き出しているから、甲の身体に対する危険が現存しており「急迫不正の侵害」がある。
イ、乙は、このままでは甲が殴られると考えこれを防ごうとしているから急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態があり防衛の意思がある。
 また、体当たりはAの攻撃を避けるためだから侵害に向けられたものである。
 よって「防衛するため」にあたる。
ウ、「やむを得ずにした」にあたるか。
 防衛行為として必要最小限度であることが必要である。
 共同正犯の正当防衛では、本要件は共同正犯者の行為を一体として考える。
 確かに、甲は28歳、170cm、65kgと若く平均的な体格の男性であり、乙も25歳、175cm、75kgという若く平均的な体格の男性であるのに対し、Aも、28cm、170cm、65kgという甲および乙と同程度の体格の男性であるから、甲と乙が2人がかりでAに体当たりする行為は、必要最小限度でないとも思える。
 しかし、Aはまさに甲の顔面に向けて殴りかかっており、これを避けるためには、甲と乙2人がかりでAの行動を制止するほかなかったといえる。
 よって、防衛行為として必要最小限度にあたり「やむを得ずにした」にあたる。
 したがって、正当防衛が成立し、暴行罪は成立しない。

・・・

上記の再現答案では「事実」と「評価」とを区別をしてはいるものの「事実」と「評価」とで文を分けてはいません。ところが、本試験での評価は刑事系全体で150位~200位の間でありあてはめにも十分な評価がなされています。その他の再現答案を分析しても分かることですが「事実」と「評価」とを同じ文中に記載すること自体に問題はありません。むしろ、時間制限や実質的な文字数制限をふまえると、「事実」と「評価」とで一文の中でまとめて記述する方が合理的であるといえます。

 

|実務書面と司法試験の答案の違い

実務書面と司法試験の答案とは違います。実務で弁護士が準備書面を作成する場合は、時間制限や文字数制限がない中で、事実関係を直接体験していない裁判所に対して事実を伝えることを重視する必要があります。そのためには、文の読みやすさを重視することになります。これに対し、司法試験の答案は、時間制限や実質的な文字数制限があるため、読みやすさをある程度犠牲にしても、少ない文字数に多くの情報を盛り込む必要があります(加点要素の密度)。また、司法試験の採点者は、問題文の内容が頭に入っているため、答案を読めば「事実」と「評価」とを区別することが可能です。したがって、ある程度読みやすさを犠牲にしてもデメリットは生じません。実務書面と司法試験の答案とにはこのような違いがあります。特に、実務家が読みやすさを重視した答案の書き方をアドバイスする際には、司法試験との関係でそのアドバイスが合理的なものか否かはよく検討をする必要があります。