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司法試験・予備試験合格のためのHow toをClearかつConciseに伝えます。

論証の理由付けを原則省略するという意識

現行司法試験との関係で、私は「論証の理由付けを原則省略する」という意識を持つことを推奨しています。その理由は以下の通りです。

 

| 途中答案を回避する必要

現行司法試験は2時間という長時間の中で最大8ページの答案を書くことになります。これは受験生にとって非常にスケールの大きい仕事です。スケールの小さい仕事では時間配分を適切に行うことができる人でもスケールの大きい仕事では時間配分を間違えることがあります(1日の計画は立てられても1年間の計画は立てられない)。したがって、2時間で8ページを書く現行司法試験は、1時間で4ページを書く旧司法試験と比較しても時間配分のミスが生じやすいといえます。現行司法試験で真っ先に脱落する人は時間配分のミスをする人です。まずはここを回避しなければなりません。

 

| 事実を拾う必要

現行司法試験は問題文が長く、多くの事実が記載されています。これは、現行司法試験が、法の解釈だけではなく法の適用に重点を置いている出題をしているからです。また、現行司法試験は法科大学院修了生または予備試験合格者といったハイレベルな受験生を想定しています。そのため、典型論点の法解釈といった「基礎的」な内容は、法科大学院または予備試験の段階でクリアしているものとみなされており、現行司法試験は、もっぱら解釈した法の適用に配点があります。したがって、現行司法試験では事実を的確に拾ってあてはめを行う必要があります。なお、現行司法試験でも法解釈が問題になることはありますが、これは、いわゆる応用論点です。応用論点についてはきちんと法解釈を展開する必要があります。

 

| 途中答案を回避しつつ事実を拾うために必要なメリハリ

途中答案を回避しつつ事実を拾うためには答案構成段階で適切なメリハリを想定しなければなりません。しかし、受験生にとって適切なメリハリをつけることは簡単ではありません。受験生にとって、①典型論点の法解釈は知っていること、②問題文の事実、③応用論点の法解釈は知らないことです。そのため、無意識のうちに、①の知っていることに気を取られてしまい、この部分により多くの筆を割いてしまいます。すなわち、受験生は普通に問題を解けば、典型論点の論証を展開し、問題文の事実や応用論点について十分考察しないという答案を書いてしまうのです。このような思考の癖を矯正しなければ、適切なメリハリは生まれません。

 

| 必要なメリハリを生むためには

やや荒療治ではありますが、必要なメリハリを生むためには、受験生が書きたくなる典型論点の法解釈を「原則として書かない」というルールを作ってしまうことです。書きたくなることは「書いてもいい」と思うとたくさん書いてしまいます。書きたくなることは「書いてはいけない」と思うくらいでちょうどよいブレーキがかかるのです。必要なメリハリを生むためには、典型論点の法解釈(理由付け)を原則として書かないというルールを自分に課すことで、半強制的に問題文の事実(や応用論点の法解釈)といった配点の大きい部分に意識を向けることが可能になります。

 

| 理由付けを書きすぎるよりは書かない方がリスクは低い

理由付けを書きすぎて事実を拾えない、設問をまるまる落とすということになるくらいなら、理由付けを書かずに広く論点を拾い、多くの事実を拾う方がリスクは小さいです。個々の論点を厚く書いても、配点が限られていることから点数は伸びません。それよりも、落とした事実や他の論点の配点が問題になります。典型論点の法解釈に限っては広く浅く触れつつ(条文と規範は明示する)、より配点の大きい事実(や応用論点)に筆を割く方が合格の可能性は高まります。

 

いかがでしょうか。実際には、受験生の多くは理由付けを端的に示すことになります。私も、ほとんどの論点について理由付けを端的に示していました。しかし、このように端的な理由付けを徹底し、必要に応じて理由付けを省略することができるのは、やはり、典型論点の法解釈のその先にある、事実や応用論点の法解釈に意識を向けているからです。仮に法律論文として正しくないとしても、典型論点の理由付けは「原則として書かない」くらいの意識を持つ方が、現行司法試験との関係ではよいのではないかと思います。