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「確認の利益」とは結局何なのか

確認訴訟の訴訟要件として論じられる「確認の利益」とは結局何なのでしょうか。①方法選択の適否、②対象選択の適否、③即時確定の利益、の3要素を問題とするという立場が伝統的な受験界通説であったと思われるが瀬木比呂志『民事訴訟法 第2版』(日本評論社)209頁において「先の3つの指標の中で最も重要なものは(即時確定の利益)であるということができ、実務上、また判例において最も問題となることが多いのも、この点である」と説明されるように、②即時確定の利益にフォーカスされることが多くなっています。この記事では、確認の利益についてどのように検討すべきかについて考察します。

 

|問題提起の手法

通常、要件を検討する際には「・・・が認められるためには①・・・、②・・・、③・・・が必要である。」等と論じることが多い。一方で、このような書き方がなじまない場面もある。「訴えの利益」の検討はこの典型である。例えば、行政法の問題において狭義の訴えの利益を論じる際には、「・・・により、処分・・・の効果が期間の経過その他の理由によりなくなったとして、処分の取り消しにり回復すべき法律上の利益(狭義の訴えの利益)が認められないのではないか」と、否定的な問題提起をすると書きやすいです。これは、私の行政法講義では必ず言及している点です。民事訴訟における確認の利益についても同様です。確認の利益を含む訴えの利益は、積極的に要件を肯定するというよりは、要件が否定されうる事情が存在し、その事情により要件が否定されないか、という観点から問題になることが多いためです。したがって、確認の利益についても、例えば、「・・・により、即時確定の利益が否定され、確認の利益が認められないのではないか。」等と否定的な問題提起をすれば、端的に問題の所在に切り込むことができます。

 

|確認の利益の3要素

現在の司法試験予備試験との関係でも、①方法選択の適否、②対象選択の適否、③即時確定の利益、の3要素を問題とするという理解で基本的には問題ありません。基本書を確認しても、確認の利益については様々な分類があるとしながらも、上記①ないし③の分類を否定する書籍は確認できていません(もし存在していたらすみません)。問題は、答案上における具体的な論じ方です。過去の司法試験でも確認の利益については複数回の出題があります。

令和2年司法試験採点実感によれば「設問1では,次に課題2として,敷金に関する確認の訴えにおける確認の利益の検討が求められている。ここでは,本件建物の明渡し前における敷金関係の確認の訴えにつき,確認の利益の一般的指標とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性に従って,あるいは確認訴訟における権利保護の資格と利益に沿って,Y2の立場から確認の利益が肯定されるように,説得的な立論をすることが求められる。特に,敷金返還請求権が設問1の課題1では将来の給付訴訟の対象と性質付けられていることとの関係をも踏まえつつ,どのような確認対象又は権利保護の資格であれば即時確定の必要性又は権利保護の利益が肯定され,基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて,理解を示す必要がある。」とされています。1つ目の下線部は複数の学説を想定しています。「確認の利益の一般的司法とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性、確認対象の適切性、即時確定の必要性」という部分は上記①ないし③の分類に即したものです。これに対し「確認訴訟における権利保護の資格と利益」という部分は例えば伊藤眞説による分類を想定したもの(伊藤眞『民事訴訟法』第7版(有斐閣)186頁~)です。2つ目の下線部は、確認対象と即時確定の利益が関連することを示唆しています。伊藤眞説によらない場合は「権利保護の資格」「権利保護の対象」という言葉はなじみがないでしょうからこれらの用語を省いて読みます。すると「どのような確認対象…であれば即時確定の必要性…が肯定され、基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて、理解を示す必要がある」ということになります。結局、確認対象を特定することではじめて②と③を検討できるので、受験生としては、確認対象を特定した上で順次②及び③を検討してゆけばよいことになります。

平成25年司法試験採点実感によれば、「受験者には,まず,確認の対象は現在の法律関係でなければならないという原則をその根拠と共に論じることを期待したが,多くの答案が不十分な論述にとどまった。この点を十分論じることなく,『そもそも確認の利益とは・・・』といったレベルの一般論を長々と述べる答案は,設問において何が重要かの判断力を欠き,暗記したことを再現しているだけのものとして,印象がよくない。」とされています。これは、当該事案で問題となる要素について端的に検討してほしいという試験委員の意図の現れと言えます。

いずれにしても、当該問題との関係で問題となりうる要素(まさに「・・・という要素を欠き、確認の利益が否定されるのではないか」という否定的な問題提起の感覚)を重点的に検討する姿勢が求められます(上記①ないし③は要件ではなく要素であるため答案上で網羅的に検討する必要はない)。

 

|3要素が問題となる事案類型を押さえる

過去問を検討すると見えてくる課題があります。それは、確認の利益にかかる3要素が問題となる事案類型を押さえておくことです。その際に問題となるのが、個々の事案類型について3要素のいずれの問題とするかです。例えば、将来の法律関係の確認の適否の問題については、一般的には②対象選択の適否の問題として論じられますが、③即時確定の利益の問題とする方がより適切であるという立場もあります(瀬木・同213頁)。令和2年司法試験に関連して、最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決は、賃貸借契約終了前の敷金返還請求権について、②対象選択の適否と③即時確定の利益の2点が問題となるとしました。

※平成11年判決は、敷金返還請求権について条件付きの現在の権利又は法律関係であるとしたのであり、将来の法律関係の確認の適否を肯定したわけではないと理解されます。また、本判例は、敷金交付自体が争われており、賃貸借契約終了前においても即時確定の利益が認められやすい事案でした。これに対し、敷金の額が争われていた場合には、敷金の額を決定しうる具体的な事情が定まっていないとして即時確定の利益が否定される余地は十分にあります。

このように、複数の要素にわたって問題となる事案もあるわけです。受験生としては、重要判例について、確認の利益のどの要素が問題となり、また、判例の射程がどこまで及ぶのかという点について勉強をしておく必要があります。