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別件逮捕・勾留の論じ方

司法試験でも出題歴のある「別件逮捕・勾留」の論じ方について検討をしてみます。

 

問題の所在を把握する

別件逮捕・勾留」の論点は、要するに、「A罪の捜査という目的でB罪を理由に身柄拘束をしてよいのか」という問題意識です。すなわち、捜査官の主観における被疑事実はA罪であるが、形式的な被疑事実はB罪であり、身柄拘束の手続要件もB罪において備えられているというケースにおいて、実質的にはA罪について身柄拘束の手続要件を充足していないのではないか・・・という点が出発点です。ここで、A罪を本件、B罪を別件といいます。別件逮捕・勾留とは「本件の捜査目的で別件を理由に逮捕・勾留すること」です。

 

形式判断か実質判断か

形式判断を貫くのが別件基準説です。「別件について逮捕・勾留の要件…を満たす限り逮捕・勾留は適法」(『刑事訴訟法判例百選第10版』第35頁(有斐閣))だとする立場です。明快ではありますが、上記問題意識に正面から答えたものとは言えません。なお、別件基準説の立場からも、余罪取調べの違法を検討する余地はあります(身柄拘束と取調べは異なる捜査手続です)。したがって、「本件の捜査目的で別件を理由に逮捕・勾留」した場合、別件規準説からは、身柄拘束は別件基準で適法とし、余罪取調べについて違法を検討するという流れになります。

一方で、実質判断を貫くのが本件基準説です。本件基準説は「捜査機関が別件での逮捕・勾留を実質的には専ら(または主として)本件の取調べ(を含む捜査)のために利用する意図・目的である場合には、逮捕・勾留(及びその請求)は違法だとする」(『刑事訴訟法判例百選第10版』第35頁(有斐閣))立場です。

さらに「本件の取り調べが過度に行われて、本来主眼となるべき別件についての捜査活動ないし公判審理が行われず、あるいは、著しく阻害されるに至った場合には、…別件による逮捕・勾留は、別件による逮捕・勾留としての実体を失って、実質上、本件取調べのための身柄拘束となったものと評価し、このような状態となった場合には、その後の勾留は令状によらない身柄拘束となるため、身柄拘束自体が令状主義に違反して違法となるとする」(田口守一他『事例研究刑事法Ⅱ第2版』(日本評論社)第473頁)立場(いわゆる実体喪失説)私は、受験生時代にこの見解をとっていました。

 

身柄拘束と取調べの関係

別件逮捕・勾留の問題は、身柄拘束の適法性の問題です。しかし、司法試験では、身柄拘束の適法性を問われる場合と、取調べの適法性を問われる場合があります。「問いに答える」という観点からすると、例えば「取調べの適法性が問われているのに身柄拘束の適法性を論じた」という事態は避けなければなりません。

身柄拘束が違法とされた場合には違法な身柄拘束を利用してなされた取調べも違法であるという立論が可能です。そのため、本件基準説によれば「当初から身柄拘束も取調べも違法」、実態喪失説からすれば「別件による身柄拘束としての実体を失った以後は身柄拘束も取調べも違法」となります(「実態喪失説では、客観的な捜査状況から、別件による身柄拘束としての実体を失ったとされる時点以降の身柄拘束のみが違法とされることになる」(田口守一他『事例研究刑事法Ⅱ第2版』(日本評論社)第473頁))。

これに対し、別件基準説は、(別件についての手続要件を満たしている限り)身柄拘束は適法としますから「身柄拘束は適法、取り調べは違法の可能性あり」となります。

 

答案をどう書くべきか

答案の書き方が難しいですが以下のように書きます。

身柄拘束の適法性を問われている場合は、「本件逮捕勾留は、A罪(本件)の捜査目的でB罪(別件)を理由になされたいわゆる別件逮捕勾留として違法ではないか」と問題提起をします。冒頭で、本件と別件の対象を明示する(ラベリング)することで、答案が読みやすくなります。また、「別件逮捕は違法である」としてしまうと、本件基準説を排除するという結論の先取りになってしまうため、「別件逮捕勾留として違法では…」と留保をつけた問題提起(留保付き問題提起)をしています。その上で、自説を述べ(実体喪失説であれば「捜査官の主観は外部からは不明であるから逮捕勾留の適法性は被疑事実である別件との関係で判断すべきである。もっとも、身柄拘束が身体の自由に対する重大な制約であることから、別件による身柄拘束がその実体を失い、実質上、本件取調べのための身柄拘束となった場合にはその時点から身柄拘束は令状によらない身柄拘束として、令状主義に反し違法となると解する。」等とします。そして、あてはめに入ります。別件基準説又は実体喪失説からあてはめをする際には、①別件の被疑事実との関係で逮捕・勾留要件をそれぞれ満たしていることを認定、②別件基準説からは余罪取り調べの適法性を検討/実体喪失説はある時点をもって別件のための身柄拘束という実体が喪失したか否かを検討、③結論、という流れです。

取調べの適法性が問われている場合は、問題提起を「本件取調べは、A罪(本件)の捜査目的で、B罪(別件)を理由になされた違法な別件逮捕勾留によるものとして違法ではないか」等として、取り調べの適法性を争点とします(別件基準説によれば、身柄拘束は違法でないと結論づけた上で、別途、余罪取り調べの可否を検討します)。

論理的な部分が難しい論点ではありますが、勝負はあてはめです。自説を固めた上で、問に対してどう答えるべきかを押さえ、あてはめに集中するようにしましょう。