TA Legal Education

司法試験・予備試験合格のためのHow toをClearかつConciseに伝えます。

About This Blog

司法試験講師Takumi Aikawaが司法試験・予備試験受験生が効率よく実力を飛躍させることができるよう有益な情報を継続的に発信します。併せて新規コンテンツイベントの告知も行います。

 

| AUTHOR PROFILE

京都大学医学部卒後、司法試験合格 

医師免許・実用英語技能検定1級等保有

大学受験時代より文系科目・理系科目をバランスよく得意とし、全国模試で国語2位、一橋大学模試で全受験者数8位を取得したこともあります。大学在学中の受験指導では、大阪医科大学医学科、大阪歯科大学歯学科、関西医科大学医学科、京都大学工学部、京都薬科大学薬学科、近畿大学医学部医学科、和歌山県立医科大学医学科等(五十音順、いずれも家庭教師のみの実績)等の合格実績を持ちます。現在は、大学受験指導からは退き司法試験指導に精力的に取り組んでいます。複数分野を広く学んだ経験を生かし、法律学習における「暗黙知」を解きほぐすことを目標としています。

 

| CONCEPTS

司法試験・予備試験突破に必要な力は①基本的知識、②論理性、③具体性を備えた答案を書くことです。司法試験の本番では「条文」「問題文」という参照可能な資料をもとに未知の事案に対して自分の考えを回答することが求められます。受験生に与えられた「裁量」が非常に大きい反面暗黙知とされる部分も多くどのように合格にアプローチすればよいのか迷いやすいことも司法試験・予備試験の特徴です。私の受験指導では司法試験に上位合格(論文16位・公法系1位・全科目A)した経験を踏まえ(再現答案はこちら)、司法試験・予備試験にかかる「暗黙知」を可能な限り言語化して再現可能な形で受験生に伝達することを目指しています。

 

| WORKS 

bexa.jp

bexa.jp 株式会社BEXAにて上記コンテンツ等を配信中。

『司法試験合格答案作成ノート』は司法試験合格答案作成のための暗黙知言語化・体系化して教材化したものでユーザー数は1000名を超えています。

その他、答案添削指導経験多数あり、法科大学院アカデミックアドバイザーを兼任し、数多くの司法試験・予備試験受験生をサポートしています。

 

SNS

Twitter 

twitter.com

受験勉強のフェーズ

司法試験の受験勉強について私が考える4つの「フェーズ」について説明をします。受験タイプによって合う・合わないがあると思いますので、自分に合うと思う方は参考にしてください。

 

その1-入門フェーズ

勉強をスタートさせる時期です。この時期はいわゆる「推測する力」が高い人が先に進むフェーズです。多少分からないことがあっても前後の文脈から分からないところを推測してテキストを先に読み進めていきます。多少解けない問題があっても解ける問題を増やしていき全体像をつかみます。

 

その2-修正フェーズ

入門フェーズで「推測する力」で先に進んできた人が誤った理解を修正するフェーズです。入門フェーズで要領よく先に進んでいった人ほどこのフェーズが重要になります。司法試験のテキストは、日常用語の延長で書かれています(少なくとも数式や英文等ではない)。そのため、「分かったつもり」になりやすいという特徴があります。「推測する力」で「分かったつもり」になったところについて、誤った理解を確認し、正確な理解へと修正していく必要があるのです。この修正フェーズを疎かにすると「立ち上がりはよいが伸び悩む」タイプの受験生になります。このフェーズでは分からないところをなくすつもりで勉強しましょう。

 

その3-妥協フェーズ

修正フェーズで分からないところをなくすつもりで勉強をしてもどうしても理解が及ばない部分というのが存在します。司法試験であれば「学説や判例が検討をしていない事案の解決」というのが典型例です。法律学はある程度大きな原理原則を意識しつつも個別具体的な事案の解決の中で内容を掘り下げていくという性質があります。そのため、学説や判例が検討をしていない事案については、学者も実務家も一定の見解を確立させっておらず、現場思考に委ねるしかないということがあります。このような問題点について「正解」を追求することは時間の無駄です。修正フェーズにおける「分からないところをなくす」ということと矛盾するようですが、「やるだけやったらあとは妥協する」というスタンスも重要です。

 

その4-訓練・調整フェーズ

身に付けた知識を実践するためのフェーズです。司法試験は受験するからには100%合格しなければなりません(現実には100%の合格というのはありえないですが、受験生のスタンスとしては100%を目指して勉強すべきです)。100%合格するためには、単に問題を解くということにとどまらず、未知の問題やイレギュラー(問題文の誤読や時間管理の失敗等)への対応といった現場力を強化することが重要になります。このフェーズに入ると、勉強というより、訓練・調整という側面が強くなります。

 

最後に

上記4つのフェーズはクリアに分かれるものではありません。例えば、当初設定した「修正フェーズ」の要求水準が合格ラインに届いていない場合は、「訓練・調整フェーズ」に入った後で、改めて「修正フェーズ」に戻るということもあります。また、出題頻度の高い分野については「訓練・調整フェーズ」に入りながらも、出題頻度の低い分野については「入門フェーズ」ということもあります。司法試験に効率よく合格していく人は、本試験の傾向や自分の学力を常に見極めながら、こうした勉強のフェーズを上手に行き来していきます。

「確認の利益」とは結局何なのか

確認訴訟の訴訟要件として論じられる「確認の利益」とは結局何なのでしょうか。①方法選択の適否、②対象選択の適否、③即時確定の利益、の3要素を問題とするという立場が伝統的な受験界通説であったと思われるが瀬木比呂志『民事訴訟法 第2版』(日本評論社)209頁において「先の3つの指標の中で最も重要なものは(即時確定の利益)であるということができ、実務上、また判例において最も問題となることが多いのも、この点である」と説明されるように、②即時確定の利益にフォーカスされることが多くなっています。この記事では、確認の利益についてどのように検討すべきかについて考察します。

 

|問題提起の手法

通常、要件を検討する際には「・・・が認められるためには①・・・、②・・・、③・・・が必要である。」等と論じることが多い。一方で、このような書き方がなじまない場面もある。「訴えの利益」の検討はこの典型である。例えば、行政法の問題において狭義の訴えの利益を論じる際には、「・・・により、処分・・・の効果が期間の経過その他の理由によりなくなったとして、処分の取り消しにり回復すべき法律上の利益(狭義の訴えの利益)が認められないのではないか」と、否定的な問題提起をすると書きやすいです。これは、私の行政法講義では必ず言及している点です。民事訴訟における確認の利益についても同様です。確認の利益を含む訴えの利益は、積極的に要件を肯定するというよりは、要件が否定されうる事情が存在し、その事情により要件が否定されないか、という観点から問題になることが多いためです。したがって、確認の利益についても、例えば、「・・・により、即時確定の利益が否定され、確認の利益が認められないのではないか。」等と否定的な問題提起をすれば、端的に問題の所在に切り込むことができます。

 

|確認の利益の3要素

現在の司法試験予備試験との関係でも、①方法選択の適否、②対象選択の適否、③即時確定の利益、の3要素を問題とするという理解で基本的には問題ありません。基本書を確認しても、確認の利益については様々な分類があるとしながらも、上記①ないし③の分類を否定する書籍は確認できていません(もし存在していたらすみません)。問題は、答案上における具体的な論じ方です。過去の司法試験でも確認の利益については複数回の出題があります。

令和2年司法試験採点実感によれば「設問1では,次に課題2として,敷金に関する確認の訴えにおける確認の利益の検討が求められている。ここでは,本件建物の明渡し前における敷金関係の確認の訴えにつき,確認の利益の一般的指標とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性に従って,あるいは確認訴訟における権利保護の資格と利益に沿って,Y2の立場から確認の利益が肯定されるように,説得的な立論をすることが求められる。特に,敷金返還請求権が設問1の課題1では将来の給付訴訟の対象と性質付けられていることとの関係をも踏まえつつ,どのような確認対象又は権利保護の資格であれば即時確定の必要性又は権利保護の利益が肯定され,基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて,理解を示す必要がある。」とされています。1つ目の下線部は複数の学説を想定しています。「確認の利益の一般的司法とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性、確認対象の適切性、即時確定の必要性」という部分は上記①ないし③の分類に即したものです。これに対し「確認訴訟における権利保護の資格と利益」という部分は例えば伊藤眞説による分類を想定したもの(伊藤眞『民事訴訟法』第7版(有斐閣)186頁~)です。2つ目の下線部は、確認対象と即時確定の利益が関連することを示唆しています。伊藤眞説によらない場合は「権利保護の資格」「権利保護の対象」という言葉はなじみがないでしょうからこれらの用語を省いて読みます。すると「どのような確認対象…であれば即時確定の必要性…が肯定され、基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて、理解を示す必要がある」ということになります。結局、確認対象を特定することではじめて②と③を検討できるので、受験生としては、確認対象を特定した上で順次②及び③を検討してゆけばよいことになります。

平成25年司法試験採点実感によれば、「受験者には,まず,確認の対象は現在の法律関係でなければならないという原則をその根拠と共に論じることを期待したが,多くの答案が不十分な論述にとどまった。この点を十分論じることなく,『そもそも確認の利益とは・・・』といったレベルの一般論を長々と述べる答案は,設問において何が重要かの判断力を欠き,暗記したことを再現しているだけのものとして,印象がよくない。」とされています。これは、当該事案で問題となる要素について端的に検討してほしいという試験委員の意図の現れと言えます。

いずれにしても、当該問題との関係で問題となりうる要素(まさに「・・・という要素を欠き、確認の利益が否定されるのではないか」という否定的な問題提起の感覚)を重点的に検討する姿勢が求められます(上記①ないし③は要件ではなく要素であるため答案上で網羅的に検討する必要はない)。

 

|3要素が問題となる事案類型を押さえる

過去問を検討すると見えてくる課題があります。それは、確認の利益にかかる3要素が問題となる事案類型を押さえておくことです。その際に問題となるのが、個々の事案類型について3要素のいずれの問題とするかです。例えば、将来の法律関係の確認の適否の問題については、一般的には②対象選択の適否の問題として論じられますが、③即時確定の利益の問題とする方がより適切であるという立場もあります(瀬木・同213頁)。令和2年司法試験に関連して、最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決は、賃貸借契約終了前の敷金返還請求権について、②対象選択の適否と③即時確定の利益の2点が問題となるとしました。

※平成11年判決は、敷金返還請求権について条件付きの現在の権利又は法律関係であるとしたのであり、将来の法律関係の確認の適否を肯定したわけではないと理解されます。また、本判例は、敷金交付自体が争われており、賃貸借契約終了前においても即時確定の利益が認められやすい事案でした。これに対し、敷金の額が争われていた場合には、敷金の額を決定しうる具体的な事情が定まっていないとして即時確定の利益が否定される余地は十分にあります。

このように、複数の要素にわたって問題となる事案もあるわけです。受験生としては、重要判例について、確認の利益のどの要素が問題となり、また、判例の射程がどこまで及ぶのかという点について勉強をしておく必要があります。

「強制の処分」該当性の検討

司法試験刑事訴訟法では「強制の処分」(刑事訴訟法第197条第1項ただし書き)該当性が頻出です。

 

|まずは条文を読んでみる

刑事訴訟法第197条第1項】

捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

刑訴法第197条第1項本文の「取調」とは捜査活動一般の意味で用いられています(白取祐司『刑事訴訟法』第10版(日本評論社)第94頁)。「その目的を達するため必要な」との部分からは比例原則(およそあらゆる捜査活動は人権制約を伴うところ、必要性等を考慮して相当といえる場合にのみ適法とされる)を読み取ることができます。次にただし書きに進みます。ただし書きでは、「強制の処分」(強制処分とは工学上の概念であり、「強制の処分」が文言上の概念です)について、例外的な扱いとしていることから任意捜査の原則が、「法律に特別の定」を要求していることから、強制処分法定主義が読み取れます。すなわち、捜査活動一般は、①強制処分(強制捜査)と②それ以外の捜査に分けられ、それ以外の捜査を任意捜査と呼ぶわけです。

また、憲法第33条、第35条、刑訴法の各規定から、明文規定のある強制処分について令状(逮捕状、捜索差押許可状その他)が必要とされていることから、「強制の処分」には令状主義も妥当すると解釈されます。

 

|強制処分該当性を検討する実益は何か

いわゆる司法警察活動について強制処分該当性を検討する実益とは何でしょうか。これは、任意捜査と強制捜査とで適法性判断の判断枠組みが異なるからです。

【任意捜査の適法性判断枠組み】

・(具体的な捜査目的との関係で)必要性等を考慮した上で相当性が認められるか否かで判断をする。

強制捜査の適法性判断枠組み】

・①強制処分法定主義違反、②令状主義違反、③法定の要件充足の有無の順で判断をする。

当該捜査が任意捜査に該当する場合は実体的な要素のみで適法性が判断されるのに対し、当該捜査が強制捜査に該当する場合は実体的な要素の前提として、強制処分法定主義違反(民主的コントロールの潜脱)、令状主義違反(司法的コントロールの潜脱)という2つの手続的な要素が検討対象となるわけです。したがって、答案では、強制処分法定主義違反及び令状主義違反という手続的な要素との関係で当該捜査活動が違法となる余地があるかどうかという観点から、当該捜査活動が強制捜査に該当するか否かを検討するわけです。

 

強制捜査該当性が問題となる2類型

司法試験・予備試験で強制捜査該当性が問題となる類型として①仮に強制捜査にあたるとした場合にどの強制捜査にあたるが明白な類型②仮に強制捜査にあたる場合でもどの強制捜査にあたるかが一見して明白ではない類型とに分かれます。①の類型は、例えば、「身柄拘束について実質的逮捕にあたるか」といった形の問題提起となりますので、強制処分法定主義違反は問題とならず(逮捕は法で定められた強制処分)、手続き的な要素については、もっぱら令状主義違反との関係で問題となります。これに対し、②の類型は、そもそも当該捜査活動が強制捜査として法で定められたものか否かという点から問題となりますので、例えば、「望遠鏡で室内をのぞき込む行為が強制捜査にあたり強制処分法定主義に反するのではないか」という形で問題になります。②の類型については以下の手順で論じれば論理が流れやすくなります。

(論じ方)

・本捜査は、「強制の処分」(刑訴法第197条第1項ただし書き)にあたり、強制処分法定主義に反しないか。

・・・

・したがって、本捜査は、「強制の処分」にあたる。そして、本捜査は、五官の作用で対象を認識するものであるから「検証」(刑訴法第218条第1項)にあたるといえ、強制処分法定主義には反しない。しかし、本捜査は、「裁判官の発する令状」(刑訴法第218条第1項)を得ずになされているから、令状主義に反し、違法である。

※司法試験、予備試験で強制捜査該当性が問題となる捜査活動は、「検証」に該当するケースが多いように思います。そのため、強制捜査該当性を肯定した後は、端的に「検証」該当性を肯定して令状主義違反と結論づければよいことになります。

 

強制捜査該当性の判断基準

最決昭和51年3月16日刑集30-2-187によれば、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と判示されています。この判例は、リーディングケースとして広く受験生の間にも浸透しているかと思います。もっとも、この判例の判断枠組みが、電話傍受やエックス線検査等、有形力を伴わない捜査についても及ぶか否かについては議論があるところです。判例のいう「意思の制圧」という部分が、有形力を伴わない捜査には妥当しないため、有形力を伴わない捜査についての判断基準としては十分ではないのではないかという問題意識があるためです。この点については、判例は、強制捜査を①有形力行使類型と②その他の類型とに分けてそれぞれについて異なる基準を使い分けているとする立場もあります。これに対し、①②いずれの類型についても、「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」という基準で判断すれば足り、昭和51年決定は、「有形力行使類型における法益侵害の程度が重大なのは『意思の制圧』を伴うような場合だというにとどま」るとする見解もあります(白鳥・同第99頁)。

受験生としては、「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」という抽象的な基準で、強制捜査該当性の判断枠組みを一元的に理解することをお勧めします。なお、その場合、あてはめにおいて、どのような権利利益が侵害されているかを特定して論じることを忘れないようにしてください。

 

|あてはめのポイント

最後に、あてはめのポイントです。上記「相手方の意思に反する重要な法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否か」は、法定の強制処分に匹敵する程度の法益侵害(権利利益の制約)を伴うか否かという観点から判断されます。したがって、身体の自由の根拠条文は憲法第33条、プライバシーの自由の根拠条文は憲法第35条ということになります。よく、法益をプライバシーとした上で憲法第13条後段を指摘する答案がありますが、ここは、捜索差押えとの関係で保護に値する程度のプライバシーということで、憲法第35条を指摘することが望ましいと考えます。判断が悩ましいのは、有形力行使を伴わない強制捜査ですが、これについては、生身の人間で認識できる以上の情報を取得するような捜査であれば、強制捜査と認定されやすいように思います(X線撮影やGPS等)。あてはめで指摘する事実は、当該捜査の質に関する事実に限られるという点に注意をしましょう。被疑事実が重大であること、嫌疑が濃厚であることといった被疑事件にかかる個別具体的な必要性は指摘の対象にはなりません。すなわち、重大な被疑事実にかかる嫌疑が濃厚な被疑者であるからという理由で逮捕が逮捕でなくなるというようなことはないわけです。

「申請に対する処分」該当性の論じ方

申請に対する処分は行政手続法第2条第2号および同条第3号により定義づけられ、同法第2章に規定があります。司法試験・予備試験において「申請に対する処分」該当性が問われた際には論じ方に工夫が必要となります。

 

「処分」と「申請に対する処分」の関係

日本語の語義からも明らかですが「申請に対する処分」は「処分」の一種です(その他の処分はいわば職権発動による処分です)。「申請」とは、私人が行政に許認可を求める行為で法令上行政に応答義務が課せられているものをいいます。すなわち、この「応答」が「申請に対する処分」になるわけです。

(図)

 処分=申請に対する処分+職権発動に対する処分

 

処分性が問われた際の対応

処分性が問われた場合は処分の要件である①公権力性、②直接具体的法効果性を認定します。もっとも、申請に対する処分の該当性が問題となる場合には、①及び②に加え、当該処分が③申請に対する処分であることをも認定する必要があります。したがって、論理的には、①~③をもって、申請に対する処分であると認定することになります。

 

論じ方の工夫

①公権力性の要素は、行政が、法律に基づいて、一方的に行う行為であることです。すなわち、「法律に基づいて」という要素を満たさなければ、処分性は認められません。一方の「申請」も、法令上行政に応答義務が課されているという要素が必要です。したがって、上記①公権力性及び③申請に対する処分の双方において、法令上の根拠が存在することが必要となるわけです(法令=法律+法規命令ですが、ほぼ同義としてここでは扱います)。①及び③の検討において、法令上の根拠の存在が要件となりますので、論じ方に工夫が必要となります。具体的には次のように論じます。

 1.私人の行為が「申請」に該当することの認定

 2.公権力性の認定

 3.直接具体的法効果性の認定

まず、先行して、私人の行為が「申請」に該当することを認定します。これにより、法令上行政に応答義務が認められるといえれば、問題となっている行政の行為は、法令上義務付けられた応答にあたりますから、公権力性の要素である「法律に基づいて」も満たされることになります。上記1及び2での検討事項がオーバーラップするところ、先行して、私人の行為が「申請」に該当することを認定すると論述がスムーズに流れます。

 

申請権の有無が明らかでない場合

「申請に対する処分」該当性が問題となる場合、申請権が保障されているか否かが法令の明文上明らかでないことが多いと思われます。その場合、申請権が保障されているか否かは「個別法の仕組み解釈」によります。文言上「申出」等と記載されている場合でも、個別法の仕組み解釈により、申請権が保障されていると解することができれば、私人の行為は「申請」にあたるということになり、また、これに対する行政の行為も(法令に基づく)応答として公権力性が肯定されることになります。

 

関連論点

行政指導に従わないことを理由に許認可にかかる処分を留保することは一定の場合に、違法となります(行手法33条、最判昭和60年7月16日)。また、私人が申請をしたにも関わらず、行政がこれを受理しない又は返戻したような場合、不受理や返戻は、法律上認められた行為ではなく処分性を有しないため、いまだ応答がないものとして、不作為の違法確認訴訟(行訴法3条5項)及び申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)を併合提起することとなります。不受理・返戻を申請拒否処分として扱って、取消訴訟+申請型義務付訴訟としないよう注意しましょう。

表現行為と萎縮的効果(特定表現に対する不利益取り扱い)

H27年司法試験憲法の出題趣旨より引用です。私人が特定の表現行為を行ったことにより不利益な取り扱いを受けた場合に「一般に当該問題について意見等を述べることを萎縮させかねないこと(表現の自由に対する萎縮効果)をも踏まえた検討」することが求められています。初見では対応が難しい論点だと思いますので少し解説を加えます。

 

表現の自由と萎縮的効果についての一般論

表現の自由規制については「萎縮的効果」という言葉がよく用いられますが、典型的には、文面審査の場面かと思われます。漠然不明確故に無効の法理は、表現に対する「萎縮的効果」をその根拠とします。このように、表現の自由に対する規制は、表現に対する萎縮を招くということは受験生に広く認知されています。

 

本問が適用違憲の問題であること

本問は、適用違憲の問題です。法令そのものの合憲性ではなく、法令に基づく権限に基づく具体的行為の合憲性が問題となります。本問のように「法令」の文言が問題文中に明示されないこともあります。そのような場合は、当該具体的行為の合憲性を端的に検討するようにしましょう。

 

なぜ「萎縮的効果」を明示的に論じるのか

文言上表現の自由を規制する法令が存在する場合、当該法令の存在自体がすでに表現の自由に対する萎縮的効果を有します(ここでいう「萎縮的効果」は一般的な語義であり、必ずしも違憲なものに限定しません)。しかし、文言上は表現の自由とは無関係な法令を根拠に特定表現をした者に対して不利益に取り扱った場合、当該取り扱いにより、初めて、表現に対する「萎縮的効果」が生じます。したがって、かかる不利益取り扱いの合憲性を検討する際には、当該取り扱いの名宛人に限らず、広く一般に対する「萎縮的効果」の問題を検討してほしいというのが出題趣旨の意図だと思われます。

 

過去問を適切に分析する

表現の自由」と「萎縮的効果」との関係は、潜在的に受験生の頭の中にあると思われますが、「文言上表現の自由と無関係な法令を根拠に特定表現をした者を不利益に取り扱った場合」、当該取り扱いが広く一般に対する「萎縮的効果」を有するという、いわゆる表現規制法令が存在する問題では当然の前提となっている問題について、明示的に論じなければならないということが、H27年憲法から得られるメッセージです。当時の受験生は初見であったため、こうした問題意識には手も足も出なかったものと思われます。しかし、既出である以上次はそうはいきません。過去問を適切に分析して周囲に差をつけましょう。

「剣道」の不受講判決を読む

最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決について検討します。この判決は、エホバの証人に入信している学生Xが、信仰上の理由により、剣道の授業を受講しなかったところ、これについて代替措置が講じられず、欠席扱いとなった結果、原級留置処分とされた事案についての判断です。いわゆる信教の自由(憲法20条1項)が問題となった事案ですが、司法試験・予備試験との関係では手薄になりがちな分野でもあるため、きちんと検討をしておきましょう。

 

判例は「高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかのは判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねらるべき」とした上で、裁量の逸脱濫用の有無について判断を行いました。この判例について、「信教の自由規制について裁量論をもって判断をした結果原級留置処分が違法とされた」とだけ記憶するのでは、論文式試験対策としては不十分です。

 

司法試験・予備試験における憲法の問題では、①権利保障、②規制、③審査基準の定立及びあてはめの3つの段階で事案を検討します。裁量論は③審査基準の定立及びあてはめのの段階の話ですが、実は、本判例は②規制の段階で重要な判断をしています。

 

判例は、「Xは、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否の結果として、他の科目では成績優秀であったにもかかわらず、原級留置、退学という事態に追い込まれ」ており、「その不利益」は「極めて大きい」とした上で、「本件各処分は、その内容それ自体においてXに信仰上の教義に反する行動を命じたのではなく、…Xの心境の自由を直接的に制約するもの」ではないが、「Xがそれらによる重大な不利益を避けるためには剣道実技の履修という自己の信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられる」との理由をもって、信教の自由に対する間接的な制約が存在すると判断したと読むことができます。すなわち、信教の自由に対する規制については、②規制段階において、「直接的制約、間接的制約、そもそも制約自体が存在しない」の3つの類型のいずれにあたるかを議論し、先に進まなければなりません(この点は、思想良心の自由に対する規制と同様です)。この点を押さえることなく、裁量論だけをインプットしていると、規制段階で実質的な検討を行うことができず、点数が伸び悩むということになります。

 

なお、上記判例の論理は少し読みにくくなっています。不利益が大きいため、直接的制約には該当しないものの、間接的制約に該当する、というロジックですが、より論理構造を明確に示すのであれば、「信仰に反する行動そのものを強制されたわけではないから直接的制約には該当しないが、不利益が大きいため信仰に反する行動をとることを余儀なくされたというべきであり間接的制約には該当する」という形になるでしょう。司法試験・予備試験の答案では、こうした論理構造を明快に示すように意識をしてください。

予備試験択一試験お疲れさまでした

司法試験予備試験受験生の皆様、択一式試験お疲れさまでした。さっそく自己採点を行っているところかと思います。択一に合格した場合、論文式試験までの時間は限られています。その間に、択一に傾いた「思考の癖」を論文に戻さなければなりません。まずは択一と論文の違いを確認しておきましょう。

【択一と論文の違い】

①択一は単一論点の出題が多いが、論文は論点の相互関係を問う問題が多い

②択一はキーワードに反応すれば正解を導けるが、論文は(最低限規範くらいは)文字情報を正確に再現しないといけない

③択一は全範囲から網羅的に出題されるが、論文は出やすいところがある程度決まっている

④択一は試験中に条文を参照できないが、論文は参照できる

 

論文対策のスタートはいろいろあるかと思いますが、まずは、解きなれた論文過去問を1年分でよいので全科目検討してみるとよいでしょう。択一と頭の使い方が全く異なるのでよいリハビリになります。その上で各科目全範囲の論点名と規範を網羅的に確認しています。「久しぶり」という感覚のものがあれば記憶から漏れている可能性が高いため注意が必要です。過去問や論点チェックの際には「必ず」条文を引くようにしましょう。ここから本試験までの間にどれだけ条文を引くことができるかが勝負になります。なお「発見しにくい条文」は条文番号を付箋に書いて壁に貼り付けておくなどして対応しましょう。本試験までの時間は限られているので今出会った条文に次に出会うのは本試験後かもしれません。見つけた弱点は全て叩き潰すつもりで対応しましょう。

 

予備試験の本番はここからです。一息ついたら、間髪入れずに論文対策に向けて突っ走ってください。応援しています。