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「剣道」の不受講判決を読む

最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決について検討します。この判決は、エホバの証人に入信している学生Xが、信仰上の理由により、剣道の授業を受講しなかったところ、これについて代替措置が講じられず、欠席扱いとなった結果、原級留置処分とされた事案についての判断です。いわゆる信教の自由(憲法20条1項)が問題となった事案ですが、司法試験・予備試験との関係では手薄になりがちな分野でもあるため、きちんと検討をしておきましょう。

 

判例は「高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかのは判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねらるべき」とした上で、裁量の逸脱濫用の有無について判断を行いました。この判例について、「信教の自由規制について裁量論をもって判断をした結果原級留置処分が違法とされた」とだけ記憶するのでは、論文式試験対策としては不十分です。

 

司法試験・予備試験における憲法の問題では、①権利保障、②規制、③審査基準の定立及びあてはめの3つの段階で事案を検討します。裁量論は③審査基準の定立及びあてはめのの段階の話ですが、実は、本判例は②規制の段階で重要な判断をしています。

 

判例は、「Xは、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否の結果として、他の科目では成績優秀であったにもかかわらず、原級留置、退学という事態に追い込まれ」ており、「その不利益」は「極めて大きい」とした上で、「本件各処分は、その内容それ自体においてXに信仰上の教義に反する行動を命じたのではなく、…Xの心境の自由を直接的に制約するもの」ではないが、「Xがそれらによる重大な不利益を避けるためには剣道実技の履修という自己の信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられる」との理由をもって、信教の自由に対する間接的な制約が存在すると判断したと読むことができます。すなわち、信教の自由に対する規制については、②規制段階において、「直接的制約、間接的制約、そもそも制約自体が存在しない」の3つの類型のいずれにあたるかを議論し、先に進まなければなりません(この点は、思想良心の自由に対する規制と同様です)。この点を押さえることなく、裁量論だけをインプットしていると、規制段階で実質的な検討を行うことができず、点数が伸び悩むということになります。

 

なお、上記判例の論理は少し読みにくくなっています。不利益が大きいため、直接的制約には該当しないものの、間接的制約に該当する、というロジックですが、より論理構造を明確に示すのであれば、「信仰に反する行動そのものを強制されたわけではないから直接的制約には該当しないが、不利益が大きいため信仰に反する行動をとることを余儀なくされたというべきであり間接的制約には該当する」という形になるでしょう。司法試験・予備試験の答案では、こうした論理構造を明快に示すように意識をしてください。