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原告適格の検討手法

この記事では行政法の超重要論点の1つである「原告適格」の検討手法について説明します。

 

| 訴訟要件としての「原告適格

原告適格行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」として規定されており取消訴訟の訴訟要件とされています。その他、非申請型義務付訴訟、差止訴訟においても訴訟要件とされますがここではひとまず取消訴訟の訴訟要件としての「原告適格」に絞って話を進めていきます。

 

行政事件訴訟法9条1項】

1.処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2.裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の①根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、②当該法令の趣旨及び目的並びに③当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、②`当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、③`当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

行政事件訴訟法9条の条文は上記のようになっています。9条1項は「法律上の利益を有する者」すなわち「原告適格」について一般的に定めた規定です。9条2項は処分の相手方以外の者が原告となる場合(例えばAが県に許認可の申請を行い許可処分が出たところで第三者たるBが同許可処分の取消訴訟を提起するような場合)に適用されます。処分の名宛人が取消訴訟を提起する際には当然に「法律上の利益を有する者」にあたることから9条2項の適用はありません。9条2項の考慮要素は大きく上記①~③です。このうち、②については②`、③については③`が補足されます。授業では②`(関係法令の趣旨目的)が強調されることがありますが、基本は①~③であることを押さえましょう。

 

| 原告適格の具体的な検討

では、処分の名宛人以外の者が取消訴訟を提起した場合、9条2項に従ってどのように原告適格を判断すればよいのでしょうか。原告適格の有無は、ⓐ処分の根拠法規が被侵害利益を一定の場合に個別的利益として保護する趣旨を含む場合でかつⓑ原告が一定の場合に該当する場合に肯定されます。言い換えると、そもそも処分の根拠法規が被侵害利益を一般的公益としてすら保護していない場合、処分の根拠法規が被侵害利益を一般的公益として保護するにとどまる場合、処分の根拠法規が被侵害利益を一定の場合に個別的利益として保護する趣旨を含むものの原告がその一定の場合にあたらない場合には原告適格が否定されます。実際には以下の手順で検討を進めます。

1.原告が主張する被侵害利益を特定

2.処分の根拠法規が被侵害利益を保護する

処分の根拠規定を特定(「根拠となる法令の規定」(9条2項))

処分の要件規定を特定、被侵害利益への配慮を認定

3.処分の根拠法規が一定の場合に被侵害利益を個別的利益として保護する

被侵害利益の内容及び性質上「被侵害利益に直接かつ重大な損害を受ける者」(=一定の場合にあたる者)が個別的利益として保護される旨を認定

4.原告の置かれた状況を上記「一定の場合」にあてはめる

このように「一定の場合」の規範を定立してこれをあてはめることが原告適格検討のゴールになります。この手順において最低限指摘すべき事項は「根拠規定」「要件規定」「被侵害利益の内容及び性質」です。「関係法令」はもちろん、目的規定その他の規定は原告適格の検討において常に必須ではないのです。

 

もんじゅ訴訟(最判平成4年9月22日)

原告適格の検討手順については「もんじゅ訴訟」が参考になります。関係法令の趣旨目的については検討していませんが、根拠規定、要件規定、被侵害利益の内容及び性質といった原告適格検討の骨格部分について考慮しています。

(以下、判例より引用)

同法二四条一項三号所定の技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであり、右各号は、このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等にかんがみると、右各号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

(引用終わり)

文の構造上読み取りにくいですが、要するに、処分の根拠規定、要件規定(ここでは基準)を指摘しつつ、被侵害利益の内容及び性質に着目して原子炉に近い者ほど直接的かつ重大な被害を受けるのであるからこのような被害を受ける範囲の者について原告適格を認めるのが法の趣旨であると解釈したわけです。上記【3】段階の書き方を研究する上でもとても有用な判例です。

 

| 最後に

原告適格の検討は、ⓐ処分の根拠法規が一定の場合に被侵害利益を個別的利益として保護すること、ⓑ原告が一定の場合にあたることを認定するという手順によります。ここで重要なのは、あくまでも、法解釈として、ⓐを導くことです。原告自身が置かれた具体的な状況はⓑの段階で初めて登場します。応用的なパターンとしては、準用条文が存在する場合や、関係法令が存在する場合が考えられます。そのような場合でも、まず、処分の根拠規定、要件規定を指摘した上で、必要に応じて準用条文や関係法令を指摘するという優先順位を忘れないようにしましょう。古典的な原告適格の検討は上記「もんじゅ訴訟」判決に見られるように、処分の根拠規定・処分の要件規定・被侵害利益の内容及び性質に着目して行われていたのであり、司法試験・予備試験においてもまずこれらの点が重要になります。