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判例百選(有斐閣)の使い方

司法試験との関係で「判例百選」(有斐閣)をどう使うかは受験生の多くが悩むところだと思います。その理由は、必ずしも使いやすい教材ではない一方で百選判例が合格水準の一つの基準になっているのではないかという疑念が生じうるからだと思います。この記事では「判例百選」という教材について私自身が受験生時代にどのように活用したのかをお話ししたいと思います。

 

| 択一対策編

択一対策では憲法」のみ判例百選を使用しました。使用目的は①重要判例の絞り込みと②判例の整理です。

①については「憲法芦部信喜)」(岩波書店)で取り上げられている判例でかつ百選に掲載されているものは超重要判例だという意識で勉強をしました。

②については判例百選を利用して関連判例を整理する表を作成してこれをインプットしました。択一対策との関係では解説はほとんど読まず判旨を中心に読みました(択一では「判例が」言っていることとそうでないこととの区別を明確に求められるため「判例が」言っていないことについては視界に入れないことにしていました)。

 

| 論文対策編

論文対策では「行政法」以外の7科目(選択科目)について使用しました。使用目的は①超重要論点の理解を深めること、②予想論点を絞り込むことです。

①については「憲法」「会社法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」「特許法」「著作権法」を利用しました。ただし、いきなり判例百選を読んだわけではありません。私は論点をリサーチする際には『予備校本→基本書・演習書→判例百選→調査官解説→その他論文等』と段階をつけていました。これは、受験生の多くが使用しているであろうと思われる教材を順に並べたものです。例えば、ある論点を司法試験レベルで書けるようにしようとした場合に予備候本で出題趣旨レベルに到達できればこれで完了し、そうでなければ、納得いくまで教材を広げていきます。多くの論点は判例百選の解説部分まで読み込めば理解をすることができましたが、例えば、強制処分該当性のあてはめについては井上先生が執筆した文献を読みましたし、自己矛盾供述についての重要判例は調査官解説まで読みました。このように、リサーチ対象を広げていく段階の途中で判例百選を位置づけていたのです。判例百選の優れいている点は、重要度の高い論点についての議論が端的にまとめられている点です。特に「規範を圧縮する」上で、権威ある立場の先生が判例法理を言い換えてくださっている解説部分は非常に重宝しました。

②については「行政法」以外の全科目で使用しました。過去問出題判例について年度を書き込み、次に、答練や模試で出題された判例に付箋を貼ります。書き込みがなく付箋を貼った部分は受験生の多くが勉強をしているという意味で対策をすべき「予想論点」になります。

 

| 百選必要論と不要論

以上が私が判例百選を使用した目的とその具体的な方法です。司法試験対策において判例百選を網羅的に学習するというのは少数派の勉強だと思われます。仮に網羅的に学習をするのであれば予備校の解説講義等のガイドをつけて行う必要があります。判例百選は上記のとおりいろいろな使い方が考えられる教材ではありますが、司法試験対策に特化していないため、判例の体系的位置づけが不明確であり、かつ、メリハリがついていないという致命的な欠陥があります。こうした欠陥を補うためにはガイドを利用するのが早道ではないかと考えます。その上で、百選が必要か不要かと問われると私は「不要」だと答えます。理由は簡単で、およそすべての教材は別の教材で代替可能であり「必要」な教材など存在しないと言えるからです。司法試験受験生は、学習プロセスの正当性に固執する傾向があると私は分析しています。こうした傾向が存在するため、特定の教材が「必要」だと聞くと(通常のコミュニケーション能力があれば「有用である」程度の意味だと理解ができるのですが法律を勉強して文言解釈に固執するとそうした理解ができなくなるのでしょう)、判例百選を(文字通り)「必要」とする学習プロセスの正当性を検証せざるを得なくなり、そのために、不必要な情報収集に走ったりすることが想定されます。この記事を読んだ方であれば、判例百選は使い方によっては「有用である」と理解できると考えるため、あえて「百選は不要である」と書きます(この部分は文字通り受け取っていただいて結構です)。

 

| 最後に

受験生が判例を学習する際は(なるべく)判例に整合的な一般原則を導き出すことに重点を置いていただきたいと思っています。個々の判例をぶつ切りで記憶するだけでは、類似の判例を知っている場合は全く同じ結論を導き出し、類似の判例が見つからない場合には思考できないという受験生になってしまいます。将来新たなケースを作っていくべきとされる司法試験受験生がこのような姿勢で許されるはずがありません。研究者の判例解釈(注:判例は解釈の対象なんですよ・・・)等を参照し(多少粗削りでもよいので)一般原則を導き出し、これを受験会場に持っていくよう努力してください。