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別件逮捕・勾留の論じ方

司法試験でも出題歴のある「別件逮捕・勾留」の論じ方について検討をしてみます。

 

問題の所在を把握する

別件逮捕・勾留」の論点は、要するに、「A罪の捜査という目的でB罪を理由に身柄拘束をしてよいのか」という問題意識です。すなわち、捜査官の主観における被疑事実はA罪であるが、形式的な被疑事実はB罪であり、身柄拘束の手続要件もB罪において備えられているというケースにおいて、実質的にはA罪について身柄拘束の手続要件を充足していないのではないか・・・という点が出発点です。ここで、A罪を本件、B罪を別件といいます。別件逮捕・勾留とは「本件の捜査目的で別件を理由に逮捕・勾留すること」です。

 

形式判断か実質判断か

形式判断を貫くのが別件基準説です。「別件について逮捕・勾留の要件…を満たす限り逮捕・勾留は適法」(『刑事訴訟法判例百選第10版』第35頁(有斐閣))だとする立場です。明快ではありますが、上記問題意識に正面から答えたものとは言えません。なお、別件基準説の立場からも、余罪取調べの違法を検討する余地はあります(身柄拘束と取調べは異なる捜査手続です)。したがって、「本件の捜査目的で別件を理由に逮捕・勾留」した場合、別件規準説からは、身柄拘束は別件基準で適法とし、余罪取調べについて違法を検討するという流れになります。

一方で、実質判断を貫くのが本件基準説です。本件基準説は「捜査機関が別件での逮捕・勾留を実質的には専ら(または主として)本件の取調べ(を含む捜査)のために利用する意図・目的である場合には、逮捕・勾留(及びその請求)は違法だとする」(『刑事訴訟法判例百選第10版』第35頁(有斐閣))立場です。

さらに「本件の取り調べが過度に行われて、本来主眼となるべき別件についての捜査活動ないし公判審理が行われず、あるいは、著しく阻害されるに至った場合には、…別件による逮捕・勾留は、別件による逮捕・勾留としての実体を失って、実質上、本件取調べのための身柄拘束となったものと評価し、このような状態となった場合には、その後の勾留は令状によらない身柄拘束となるため、身柄拘束自体が令状主義に違反して違法となるとする」(田口守一他『事例研究刑事法Ⅱ第2版』(日本評論社)第473頁)立場(いわゆる実体喪失説)私は、受験生時代にこの見解をとっていました。

 

身柄拘束と取調べの関係

別件逮捕・勾留の問題は、身柄拘束の適法性の問題です。しかし、司法試験では、身柄拘束の適法性を問われる場合と、取調べの適法性を問われる場合があります。「問いに答える」という観点からすると、例えば「取調べの適法性が問われているのに身柄拘束の適法性を論じた」という事態は避けなければなりません。

身柄拘束が違法とされた場合には違法な身柄拘束を利用してなされた取調べも違法であるという立論が可能です。そのため、本件基準説によれば「当初から身柄拘束も取調べも違法」、実態喪失説からすれば「別件による身柄拘束としての実体を失った以後は身柄拘束も取調べも違法」となります(「実態喪失説では、客観的な捜査状況から、別件による身柄拘束としての実体を失ったとされる時点以降の身柄拘束のみが違法とされることになる」(田口守一他『事例研究刑事法Ⅱ第2版』(日本評論社)第473頁))。

これに対し、別件基準説は、(別件についての手続要件を満たしている限り)身柄拘束は適法としますから「身柄拘束は適法、取り調べは違法の可能性あり」となります。

 

答案をどう書くべきか

答案の書き方が難しいですが以下のように書きます。

身柄拘束の適法性を問われている場合は、「本件逮捕勾留は、A罪(本件)の捜査目的でB罪(別件)を理由になされたいわゆる別件逮捕勾留として違法ではないか」と問題提起をします。冒頭で、本件と別件の対象を明示する(ラベリング)することで、答案が読みやすくなります。また、「別件逮捕は違法である」としてしまうと、本件基準説を排除するという結論の先取りになってしまうため、「別件逮捕勾留として違法では…」と留保をつけた問題提起(留保付き問題提起)をしています。その上で、自説を述べ(実体喪失説であれば「捜査官の主観は外部からは不明であるから逮捕勾留の適法性は被疑事実である別件との関係で判断すべきである。もっとも、身柄拘束が身体の自由に対する重大な制約であることから、別件による身柄拘束がその実体を失い、実質上、本件取調べのための身柄拘束となった場合にはその時点から身柄拘束は令状によらない身柄拘束として、令状主義に反し違法となると解する。」等とします。そして、あてはめに入ります。別件基準説又は実体喪失説からあてはめをする際には、①別件の被疑事実との関係で逮捕・勾留要件をそれぞれ満たしていることを認定、②別件基準説からは余罪取り調べの適法性を検討/実体喪失説はある時点をもって別件のための身柄拘束という実体が喪失したか否かを検討、③結論、という流れです。

取調べの適法性が問われている場合は、問題提起を「本件取調べは、A罪(本件)の捜査目的で、B罪(別件)を理由になされた違法な別件逮捕勾留によるものとして違法ではないか」等として、取り調べの適法性を争点とします(別件基準説によれば、身柄拘束は違法でないと結論づけた上で、別途、余罪取り調べの可否を検討します)。

論理的な部分が難しい論点ではありますが、勝負はあてはめです。自説を固めた上で、問に対してどう答えるべきかを押さえ、あてはめに集中するようにしましょう。

無効確認訴訟の補充性要件を考える

司法試験でも出題歴のある無効確認訴訟の補充性要件について検討します。この論点は一見わかりやすそうで実は分かりにくいのできちんと内容を整理して押さえておく必要があります。

 

根拠条文を確認する

まずは無効確認訴訟の補充性要件の根拠条文を確認します。

【条文-行政事件訴訟法36条】

「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。」

アンダーラインを引いた部分が補充性要件の根拠条文です。すなわち、無効確認訴訟を提起するためには、当該処分等の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えでは目的を達成できないことが必要だということです(補充性要件)。現在の法律関係に関する訴えとは、民事訴訟争点訴訟)又は当事者訴訟をいいます。すなわち、処分の無効そのものを求めるのではなく、処分が無効であることを前提として、現在の法律関係に関する主張を行う訴訟をいいます(Ex.土地収用処分の無効を前提に、民事訴訟又は当事者訴訟として元土地所有者の所有権確認の訴えを提起する等。土地収用処分自体の無効確認判決を求めているわけではないですが、土地収用処分の無効を前提に、所有権確認判決を求めています)。

 

条文の解釈を確認する

通説によれば、無効等確認訴訟(抗告訴訟)を認めるか現在の法律関係に関する訴えで争わせるべきかについては、「紛争の実態に照らし、無効等確認訴訟と他の訴訟(民事訴訟争点訴訟や当事者訴訟)のいずれが当該紛争を解決するためのより直截的で適切な争訟形態(訴訟形式)といえるかにより」(大島義則編著『実務解説行政訴訟勁草書房第144頁)決定されるべきと解釈されています。最判平成4年9月22日(もんじゅ訴訟)も、「…本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的かつ適切なものであるともいえない…」として、この立場に立つことを明らかにしています。

 

解釈のポイントを押さえる

上記解釈のキーポイントは「目的を達することができない」との文言です。すなわち、「目的を達することができない」について、①民事訴訟又は当事者訴訟が提起できない場合だけでなく、②民事訴訟又は当事者訴訟を提起することはできるものの無効確認訴訟の方がより直截的かつ適切といえる場合にも、「目的を達することができない」に該当するということです。文言上は、①の場合にのみ補充性要件が認められるとも読めそうですが、解釈上、①だけでなく②の場合にも補充性要件が認められることになります。

 

そもそも無効確認訴訟とは何なのか

行政処分には公定力があります。公定力とは、取消判決により処分の効力が否定されるまで当該処分は有効であるという効力です。そして、取消訴訟には、出訴期間制限(行政事件訴訟法14条)があります。公定力と、出訴期間制限を合わせると、出訴期間を経過した処分については、その効力を争うことができなくなります。

では、「現在の法律関係に関する訴え」を提起し、行政処分の効力を否定した上で現在の法律関係に関する訴えを提起することはできるのでしょうか。これはできないとされています。上記公定力と表裏の関係にありますが、行政処分の効力は、取消訴訟によってのみ争うことができるのです(取消訴訟の排他性)。やはり、出訴期間制限後は、行政処分の効力を争ったり、行政処分の効力を否定して何らかの法律関係についての主張を行うことは不可能だということになります。もっとも、この公定力(取消訴訟の排他性)には例外があります。すなわち、行政処分が違法であるにとどまらず無効と言える場合です。このような場合には、取消訴訟によらずとも、行政処分の効力を否定することができるのです(無効な行政処分には公定力(取消訴訟の排他性)は認められない)。そこで、当事者としては、取消訴訟の出訴期間制限後に、行政処分の効力を争うために、行政処分が無効であることを前提として現在の法律関係に関する訴えを提起することができるのです。

なお、そうであれば、わざわざ行政処分の無効確認訴訟をいう訴訟形態を法定する必要はないように思えます。無効な行政処分については公定力(取消訴訟の排他性)が及ばないのですから、民事訴訟又は当事者訴訟で、処分が無効であることを前提に法的主張を組み立てればよいのです。しかし、行政事件訴訟法は、抗告訴訟としての無効確認訴訟を法定しています。これは、行政処分の効力を否定した上で現在の法律関係に関する訴えを提起するよりも、ダイレクトに処分の無効確認を求める方が、紛争の実態にとってより直截的かつ適切な場合があるからです。したがって、行政事件訴訟法は、無効な行政処分については、「現在の法律関係の訴えに比して無効確認訴訟の方がbetterといえる場合」に限り、無効確認訴訟により、ダイレクトに処分の無効確認を求めることができるとしているわけです(無効確認訴訟は、このように、補充的な位置付けであるため、上記の通り、補充性要件と呼ばれます)。

 

実際にどのように訴訟選択をするか

では、処分が違法といえる場合に、どのように訴訟選択をすべきでしょうか。

1.処分が違法であるが無効ではない場合

この場合は、取消訴訟出訴期間内に、当該処分の取消訴訟を提起しなければなりません。違法ではあるが無効ではない処分については公定力(取消訴訟の排他性)が認められるため、現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)を提起して当該処分の効力を否定することを前提とした主張を行うことはできません。

2.処分が無効である場合

この場合には、①出訴期間制限内であれば処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)あるいは取消訴訟を提起します。これに対し、②出訴期間制限後であれば、処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(民事訴訟又は当事者訴訟)あるいは無効確認訴訟を提起します。①の場合は、現在の法律関係に関する訴えと取消訴訟のいずれも選択することができますが、前者による場合は処分が無効と言えない限りは訴えが認められないため取消訴訟による方がハードルが低い可能性が高いです。一方で、②の場合は、原則として現在の法律関係に関する訴えを提起することとなり、補充性要件を満たす場合に限り、無効確認訴訟が選択肢に上がります。

 

いかがでしょうか。以上が、無効確認訴訟の補充性要件についての考え方です。行政事件訴訟法の条文解釈の問題ではありますが、行政処分の公定力(取消訴訟の排他性)についての理解が問われる論点でもあります。また、補充性要件についてのあてはめについても具体性が求められます。民事訴訟又は当事者訴訟と抗告訴訟の違いを押さえておきましょう(行訴法38条1項、33条1項:拘束力、行訴法38条3項、25条:執行停止等)(※本記事での説明は省略します)。

論証の理由付けを原則省略するという意識

現行司法試験との関係で、私は「論証の理由付けを原則省略する」という意識を持つことを推奨しています。その理由は以下の通りです。

 

| 途中答案を回避する必要

現行司法試験は2時間という長時間の中で最大8ページの答案を書くことになります。これは受験生にとって非常にスケールの大きい仕事です。スケールの小さい仕事では時間配分を適切に行うことができる人でもスケールの大きい仕事では時間配分を間違えることがあります(1日の計画は立てられても1年間の計画は立てられない)。したがって、2時間で8ページを書く現行司法試験は、1時間で4ページを書く旧司法試験と比較しても時間配分のミスが生じやすいといえます。現行司法試験で真っ先に脱落する人は時間配分のミスをする人です。まずはここを回避しなければなりません。

 

| 事実を拾う必要

現行司法試験は問題文が長く、多くの事実が記載されています。これは、現行司法試験が、法の解釈だけではなく法の適用に重点を置いている出題をしているからです。また、現行司法試験は法科大学院修了生または予備試験合格者といったハイレベルな受験生を想定しています。そのため、典型論点の法解釈といった「基礎的」な内容は、法科大学院または予備試験の段階でクリアしているものとみなされており、現行司法試験は、もっぱら解釈した法の適用に配点があります。したがって、現行司法試験では事実を的確に拾ってあてはめを行う必要があります。なお、現行司法試験でも法解釈が問題になることはありますが、これは、いわゆる応用論点です。応用論点についてはきちんと法解釈を展開する必要があります。

 

| 途中答案を回避しつつ事実を拾うために必要なメリハリ

途中答案を回避しつつ事実を拾うためには答案構成段階で適切なメリハリを想定しなければなりません。しかし、受験生にとって適切なメリハリをつけることは簡単ではありません。受験生にとって、①典型論点の法解釈は知っていること、②問題文の事実、③応用論点の法解釈は知らないことです。そのため、無意識のうちに、①の知っていることに気を取られてしまい、この部分により多くの筆を割いてしまいます。すなわち、受験生は普通に問題を解けば、典型論点の論証を展開し、問題文の事実や応用論点について十分考察しないという答案を書いてしまうのです。このような思考の癖を矯正しなければ、適切なメリハリは生まれません。

 

| 必要なメリハリを生むためには

やや荒療治ではありますが、必要なメリハリを生むためには、受験生が書きたくなる典型論点の法解釈を「原則として書かない」というルールを作ってしまうことです。書きたくなることは「書いてもいい」と思うとたくさん書いてしまいます。書きたくなることは「書いてはいけない」と思うくらいでちょうどよいブレーキがかかるのです。必要なメリハリを生むためには、典型論点の法解釈(理由付け)を原則として書かないというルールを自分に課すことで、半強制的に問題文の事実(や応用論点の法解釈)といった配点の大きい部分に意識を向けることが可能になります。

 

| 理由付けを書きすぎるよりは書かない方がリスクは低い

理由付けを書きすぎて事実を拾えない、設問をまるまる落とすということになるくらいなら、理由付けを書かずに広く論点を拾い、多くの事実を拾う方がリスクは小さいです。個々の論点を厚く書いても、配点が限られていることから点数は伸びません。それよりも、落とした事実や他の論点の配点が問題になります。典型論点の法解釈に限っては広く浅く触れつつ(条文と規範は明示する)、より配点の大きい事実(や応用論点)に筆を割く方が合格の可能性は高まります。

 

いかがでしょうか。実際には、受験生の多くは理由付けを端的に示すことになります。私も、ほとんどの論点について理由付けを端的に示していました。しかし、このように端的な理由付けを徹底し、必要に応じて理由付けを省略することができるのは、やはり、典型論点の法解釈のその先にある、事実や応用論点の法解釈に意識を向けているからです。仮に法律論文として正しくないとしても、典型論点の理由付けは「原則として書かない」くらいの意識を持つ方が、現行司法試験との関係ではよいのではないかと思います。

処分性検討における「権利救済の実効性」の位置づけ

処分性(行政事件訴訟法3条2項)検討における「権利救済の実効性」の位置づけについては諸説あります。中には、①公権力性、②直接具体的法効果性、③権利救済の実効性の3要件で処分性を検討するべきであるという立場もあるようですが、①②が明らかに認められる場合に③を要件として別建てすることの合理性は考えにくいです。以下では私の整理を述べます。

 

| 権利救済の実効性が問題となる場合

権利救済の実効性が問題となるのは、形式論理によれば処分性が否定される場合(特に直接具体的法効果性が否定される場合)です。この場合に、実質的な議論を介在させることで、直接具体的法効果性の認定を少し緩やかに行うとするのが、近年の判例・裁判例の立場だと理解することもできます。もっとも、単純に直接具体的法効果性の認定を緩和することで、処分性の範囲が無制限に広がるおそれもあります。そのため、直接具体的法効果性を緩和して認定する際には「権利救済の実効性」が肯定されることを要求することで、処分性の範囲を合理的に限定するということが考えられます。

 

| 答案ではどう書くか

上記のような理解によると、「権利救済の実効性」を要件として挙げる場合と挙げない場合とが存在することになり、論理一過性が失われます。また、処分性の要件として、①公権力性、②直接具体的法効果性を挙げた上で、別に③権利救済の実効性を要件とすることで、法的三段論法が崩れるおそれもあります。そのため、私は、以下のように検討をしています。

・処分の意義

・処分の要件(①公権力性、②直接具体的法効果性)

・①公権力性が認められる。

・②直接具体的法効果性が認められるか

  たしかに認められないとも思える。

  しかし実質的に検討すると直接具体的法効果性が認められる。

  なお、この結論は、権利救済の実効性の見地からも妥当である

  したがって、②直接具体的法効果性が認められる。

下線部において、「なお書き」で権利救済の実効性に言及することで、全体の論理を邪魔することなく、判例を踏まえた論述をすることができます。ちなみに、土地区画整理事業認可について処分性を肯定した判例最判平成20年9月10日)も、「実効的な権利救済の見地から『も』」として、権利救済の実効性について、結論の合理性を支える要素として付加的に言及しています。

 

| 権利救済の実効性のみで処分性を肯定しない

注意しなければならないのは、権利救済の実効性というマジックワードで処分性を安易に肯定してはならないということです。あくまでも、何らかのロジックにより、直接具体的法効果性を肯定しうるということが前提です。この点において、例えば、条例という形式をとっていても実質的に対象が特定されているから具体性を肯定しうる、土地区画整理事業認可がなされたことで「換地処分がなされうる法的地位」を認めて法効果性を肯定しうる等、明確にロジックを示したうえで、「なお…」として権利救済の実効性に言及することになります。配点があるのはあくまでも「ロジック」なので、この点に注意してください。

同時履行の抗弁に対する履行の提供の再抗弁

同時履行の抗弁に対する履行の提供の再抗弁は主張自体失当として認められることはありませんが、こうした論点に導入する際に書き方に迷うことはよくあります。「同時履行の抗弁に対する履行の提供の再抗弁が認められるか」とするといかにも論点主義的であり気持ち悪さが残ります。

 

|「論点主義」とは何か

司法試験受験業界における「論点主義」とは多義的ではありますが、私は「当該問題との関連性が明らかでないにもかかわらず論点を展開する手法」であるととらえています。言い換えると、当該問題との関連性を示していれば論点を展開したからといって「論点主義」とされることはありません。具体的には、①問題文の事実と絡めて問題提起を行う②法的な効果(問題文から検討を求められている効果)と絡めて問題提起を行う③従前の議論を受けた形で問題提起を行う、といった形をとれば、「論点主義」とされることを回避できます。

 

|法律上の主張が成立すると仮定して事実を先出しする手法

(例)同時履行の抗弁に対する再抗弁としての履行の提供の主張

Xは、Yに対して取立債務たる本件債務について目的物を用意し(「弁済の準備」)、これを電話で伝えて取りに来るよう求めている(「通知してその受領の催告」)から、「弁済の提供」(493条)があったとして、同時履行の抗弁が認められないと再反論をする。この反論は認められるか。

仮に法律論として成り立つとすれば・・・という仮定のもと、事実を使って問題提起を行っています。問題文中に”取立債務について弁済の提供を行ったと認定しうる事実”が存在しているからこそ「同時履行の抗弁に対する履行の提供の再抗弁が認められるか」という論点が登場するわけです。この点を押さえて問題提起を行うことで、「論点主義」的な答案を回避することができます。

 

「論点主義」を回避する手法はいろいろありますが、上記のように、法律論レベルで切られる主張であっても敢えて事実から問題提起を行うことで当該事案との関係で必要な考察を尽くしているとの印象を与えることができます。

【告知記事】2021年11月28日

当記事は告知記事になります。本日は2点告知を行います。

 

答案添削サイト「コレクチャ」募集要項変更

correctcha.com

募集対象問題を「令和2年から平成30年の司法試験・予備試験」としていたところ「令和3年から令和1年の司法試験・予備試験」へと変更します。選択科目の知的財産法も対応しておりますのでご利用ください。

 

「知的財産法過去問講座」(BEXA)

bexa.jp

BEXAさんで販売させていただいている「知的財産法過去問講座」の令和3年特許法著作権法の解説を収録しました(配信開始はBEXAさんより告知があります)。いずれの問題もオーソドックスながら重要事項を含んでいるため演習価値が高いです。司法試験だけでなく予備試験を受験される方もご利用ください(なお、本日をもって、「知的財産法速習入門講座」「知的財産法過去問講座」「知的財産法速習入門講座+知的財産法過去問講座」の販売部数が100部に到達しました。これも、小泉直樹先生の著書を利用させていただいたおかげだと考えております。1人でも多く、知財を「楽しい」と思ってくれる受験生が増えることを祈っております)。

 

・・・ちょっとだけこぼれ話です・・・

私の答案添削サービスのスタンスは「添削を通じて基礎学力を身につける」ものではなく「添削を通じて答案作成技法における課題を発見・解決する」ことにあります(前者のスタンスに立つには大量の答案を添削しなければならず私自身のマンパワーでは対応することができません)。後者のスタンスは「とにかくたくさん答案を提出して勉強する」というよりも「自身では解決できない課題を見つけるために答案を提出する」という受験生にマッチしていると考えています。したがって、ある程度高めの価格帯を設定することで、受験生の皆さんに「しかるべき時」に答案を提出してほしいと考えています。「添削料金が高いな・・・」と感じる受験生には、こうした意図をご理解いただければと思います。

判例百選(有斐閣)の使い方

司法試験との関係で「判例百選」(有斐閣)をどう使うかは受験生の多くが悩むところだと思います。その理由は、必ずしも使いやすい教材ではない一方で百選判例が合格水準の一つの基準になっているのではないかという疑念が生じうるからだと思います。この記事では「判例百選」という教材について私自身が受験生時代にどのように活用したのかをお話ししたいと思います。

 

| 択一対策編

択一対策では憲法」のみ判例百選を使用しました。使用目的は①重要判例の絞り込みと②判例の整理です。

①については「憲法芦部信喜)」(岩波書店)で取り上げられている判例でかつ百選に掲載されているものは超重要判例だという意識で勉強をしました。

②については判例百選を利用して関連判例を整理する表を作成してこれをインプットしました。択一対策との関係では解説はほとんど読まず判旨を中心に読みました(択一では「判例が」言っていることとそうでないこととの区別を明確に求められるため「判例が」言っていないことについては視界に入れないことにしていました)。

 

| 論文対策編

論文対策では「行政法」以外の7科目(選択科目)について使用しました。使用目的は①超重要論点の理解を深めること、②予想論点を絞り込むことです。

①については「憲法」「会社法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」「特許法」「著作権法」を利用しました。ただし、いきなり判例百選を読んだわけではありません。私は論点をリサーチする際には『予備校本→基本書・演習書→判例百選→調査官解説→その他論文等』と段階をつけていました。これは、受験生の多くが使用しているであろうと思われる教材を順に並べたものです。例えば、ある論点を司法試験レベルで書けるようにしようとした場合に予備候本で出題趣旨レベルに到達できればこれで完了し、そうでなければ、納得いくまで教材を広げていきます。多くの論点は判例百選の解説部分まで読み込めば理解をすることができましたが、例えば、強制処分該当性のあてはめについては井上先生が執筆した文献を読みましたし、自己矛盾供述についての重要判例は調査官解説まで読みました。このように、リサーチ対象を広げていく段階の途中で判例百選を位置づけていたのです。判例百選の優れいている点は、重要度の高い論点についての議論が端的にまとめられている点です。特に「規範を圧縮する」上で、権威ある立場の先生が判例法理を言い換えてくださっている解説部分は非常に重宝しました。

②については「行政法」以外の全科目で使用しました。過去問出題判例について年度を書き込み、次に、答練や模試で出題された判例に付箋を貼ります。書き込みがなく付箋を貼った部分は受験生の多くが勉強をしているという意味で対策をすべき「予想論点」になります。

 

| 百選必要論と不要論

以上が私が判例百選を使用した目的とその具体的な方法です。司法試験対策において判例百選を網羅的に学習するというのは少数派の勉強だと思われます。仮に網羅的に学習をするのであれば予備校の解説講義等のガイドをつけて行う必要があります。判例百選は上記のとおりいろいろな使い方が考えられる教材ではありますが、司法試験対策に特化していないため、判例の体系的位置づけが不明確であり、かつ、メリハリがついていないという致命的な欠陥があります。こうした欠陥を補うためにはガイドを利用するのが早道ではないかと考えます。その上で、百選が必要か不要かと問われると私は「不要」だと答えます。理由は簡単で、およそすべての教材は別の教材で代替可能であり「必要」な教材など存在しないと言えるからです。司法試験受験生は、学習プロセスの正当性に固執する傾向があると私は分析しています。こうした傾向が存在するため、特定の教材が「必要」だと聞くと(通常のコミュニケーション能力があれば「有用である」程度の意味だと理解ができるのですが法律を勉強して文言解釈に固執するとそうした理解ができなくなるのでしょう)、判例百選を(文字通り)「必要」とする学習プロセスの正当性を検証せざるを得なくなり、そのために、不必要な情報収集に走ったりすることが想定されます。この記事を読んだ方であれば、判例百選は使い方によっては「有用である」と理解できると考えるため、あえて「百選は不要である」と書きます(この部分は文字通り受け取っていただいて結構です)。

 

| 最後に

受験生が判例を学習する際は(なるべく)判例に整合的な一般原則を導き出すことに重点を置いていただきたいと思っています。個々の判例をぶつ切りで記憶するだけでは、類似の判例を知っている場合は全く同じ結論を導き出し、類似の判例が見つからない場合には思考できないという受験生になってしまいます。将来新たなケースを作っていくべきとされる司法試験受験生がこのような姿勢で許されるはずがありません。研究者の判例解釈(注:判例は解釈の対象なんですよ・・・)等を参照し(多少粗削りでもよいので)一般原則を導き出し、これを受験会場に持っていくよう努力してください。