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要件事実との付き合い方

●「要件事実」は「民法」の一部

●「要件事実」を学ぶと司法試験民法が分かる

●「要件事実」を学ぶと司法試験民訴法も分かる

 

司法試験受験生の皆さんは「要件事実」の学習に強い関心を持っているかと思います。「要件事実」を勉強しないといけないという気持ちと「要件事実」を学ばなくてもよいという気持ちとがせめぎ合い明確な学習方針を立てられない方も多いのではないでしょうか。この記事では「要件事実」が「民法」の一部であるということを前提としつつも「民法」のみならず「民訴法」の学習にも役立つということを説明していきます。

 

|「要件事実」は「民法」の一部

要件事実の定義には諸説ありますが、一つには、権利の発生、障害、消滅等の法律効果の発生に直接必要な主要事実のことを「要件事実」というとの立場があります。どのような立場を取っていただいても構いませんが、司法試験との関係では、「要件事実」とは、請求原因事実、抗弁事実等の具体的な事実を指すという程度に理解をしておけばよいでしょう。では、この「要件事実」としてどのような事実を摘示すればよいかを学ぶことで、司法試験民法の全体像が分かるのでしょうか。答えは否です。通常、あらかじめ想定された攻撃防御方法を前提に、「要件事実」を学習します。これは、事実摘示の訓練という意味合いもあり、典型的な主張・反論・再反論・・・の流れを前提に、どういった事実を「要件事実」として摘示すべきかを身に付けることを目的とするものです。一方で、司法試験民法では、そもそも、どういった請求が考えられるのか、その請求との関係でどのような要件が必要か、といった法律上の争点にも配点があります。この点を無視して、要件事実のみを摘示すると、法律上の争点に対する配点をまるまるおとしてしまうことになります。これでは、司法試験民法で十分な点数を稼ぐことはできません。「要件事実」は「民法」の一部に過ぎないことを意識しましょう。

 

|要件事実学ぶことで司法試験民法の理解が深まる

一方で「要件事実」学習は、民法の理解に大きく寄与します。まず、「要件事実」を押さえることにより、法律効果発生のためにどのような事実が必要かを理解することができます。例えば、売買契約に基づく代金支払請求権という訴訟物(権利)を主張し、これが認められるためには、請求原因において「原告が被告との間で売買契約を締結したこと」を主張立証すれば足ります。この「売買契約を締結したこと」を具体化すると「目的物」と「代金額又は代金額の決定方法の合意」とが必要になります。このように、要件事実を学ぶことで、「売買契約」の要素が「目的物」と「代金」であることを押さえることができます。司法試験の答案上で、この点をわざわざ説明することはないですが、「Xは、Yに対し、売買契約に基づく代金支払い請求権を主張し、1000万円の支払いを請求する。Xは、かかる主張を基礎づけるため、XがYに対して本件土地を1000万円で売却したとの事実を主張し、この事実は認められる。」等と論じることで、「目的物」「代金」の2つの要素を理解していることを示すことができます。「要件事実」を学ぶことで、あてはめの要素を押さえることができるのです。

 

|要件事実学ぶことで司法試験民訴法の理解も深まる

「要件事実」を学ぶことで民訴法の理解も深まります。例えば、弁論主義の適用範囲について論じる場合を考えます。弁論主義は、主要事実にのみ適用されます。そのため、弁論主義が適用されるか否かは、対象事実が主要事実か否かによることになります。ここで、「要件事実」を理解していないと、主要事実を特定することができず、結果的に、弁論主義の適用範囲についてのあてはめがぼやっとしたものになります。これに対し、「要件事実」を理解していると、あてはめが明快になります。「弁論主義第1テーゼは、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないとするものであり、弁論主義は主要事実にのみ適用される。本訴訟において、Xは、Yに対し、売買契約に基づく代金支払い請求権を主張し、1000万円の支払いを請求するところ、売買契約締結の事実は、Xの請求にかかる請求原因事実たる主要事実であるから、この事実には、弁論主義第1テーゼが適用される。XもYも、いずれもこの事実を主張していないのであるから、裁判所は、この事実を判決の基礎とすることはできない。」というように、論じることができます。「要件事実」を学ぶことで、民訴法の理解が深まり、論述が明快になります。

 

このように、「要件事実」は、民法の一部に過ぎないという点で注意して取り組む必要のあるテーマではありますが、要件事実を学ぶことで、民法のみならず民訴法の理解も深まります。受験生においては、なるべく、要件事実について前向きに取り組むことで、民法だけでなく、民訴法も得意にしてほしいと思います。